【ことわざ】
親子は一世、夫婦は二世、主従は三世
【読み方】
おやこはいっせ、ふうふはにせ、しゅじゅうはさんぜ
【意味】
親子の縁は現世だけ、夫婦の縁は現世から来世まで、主従の縁は前世・現世・来世にわたるほど深いということ。


【類義語】
・親は一世、師は三世(おやはいっせ、しはさんぜ)
「親子は一世、夫婦は二世、主従は三世」の語源・由来
「親子は一世、夫婦は二世、主従は三世」は、仏教に由来する「世」の考え方を、人と人との縁の深さに当てはめたことわざです。「一世」は一つの世、「二世」は現世と来世、「三世」は前世・現世・来世を指します。ここでの「世」は、親、子、孫という世代ではなく、人が生まれ変わりながら過ごす時の広がりを表しています。
「親子は一世」は、親子の縁が今生(こんじょう:この世で生きる間)だけのものだという意味です。血のつながった親子は、生まれながらに結ばれる間柄であるため、この世だけの縁として数えられました。夫婦や主従よりも親子の愛情が実際に弱いという意味ではなく、昔の人が縁の性質を説明するために設けた順序です。
この部分の古い用例は、『保元物語(ほうげんものがたり)』(1220年ごろ成立、鎌倉時代前期)にあります。同書には、「親子は一世の契りと申せども」とあり、親子はこの世かぎりの縁だとする考えが、すでに中世初期の軍記物語に現れています。その場面では、現世で別れた親子が、来世には同じ蓮(はす)の上で再会できるよう願っています。
「主従は三世」という考えも、中世の物語に早くから現れます。『曾我物語(そがものがたり)』(南北朝時代ごろ成立)には、「しくんは三ぜのゑんあり」とあり、主君から受けた恩を来世で返そうとする家来の言葉として使われています。主従の縁は一生だけでは終わらず、前世から来世まで続くという忠義の考えを表しています。
『義経記(ぎけいき)』(室町時代成立)にも、「親は一世の契り、主は三ぜのちぎりと申せども」とあります。ここでは、親子の縁と主従の縁とが直接比べられ、家来が主君へ尽くすべき忠義は、親子の情よりも長く続くものとして語られています。現在のことわざの骨組みに近い言い方が、中世の軍記物語の中ですでに用いられていたことが分かります。
「夫婦は二世」は、夫婦の縁がこの世だけでなく、来世にも続くという意味です。謡曲(ようきょく)『籠太鼓(ろうだいこ)』(1466年ごろ成立)には、「二世のえん」という言い方があり、夫婦が死後の世までも結ばれることを表しています。
さらに、御伽草子(おとぎぞうし)『御曹子島渡(おんぞうししまわたり)』(室町時代末期成立)には、「ふう婦は二世の契ぞかし」とあります。「契り」は、固く結ばれた約束や縁のことです。この用例では、夫婦の結び付きが、現世から来世まで続くものとしてはっきり表されています。
江戸時代前期には、これらの言い方が、一続きのことわざとしてまとめられていきました。松江重頼編『毛吹草(けふきぐさ)』(1645年・江戸時代前期)には、「親子は一世、師は三ぜ、夫婦は二世のちぎり」という近い形が載っています。現在の形とは順序が異なり、「主従」の代わりに「師」が使われていますが、一世・二世・三世によって人間関係の深さを表す考え方は共通しています。
その後、「親子は一世」「夫婦は二世」「主従は三世」という三つの言い方が、数字の順に並ぶ現在の形として定着しました。「主従」は「しゅじゅう」のほか、古い用例では「しゅうじゅう」とも読まれています。どちらの読みでも、主人と従者との間には、三世にわたる深い因縁があるという意味です。
このことわざの背景には、来世や生まれ変わりを信じる仏教的な考えと、主君への忠義を重んじた中世・近世の社会があります。親子より夫婦、夫婦より主従の縁を重く置く順序は、現代の家族関係や仕事上の関係に、そのまま当てはめるものではありません。昔の人々が、夫婦の契りや主従の忠義をどれほど重いものと考えていたかを伝える表現です。
「親子は一世、夫婦は二世、主従は三世」の使い方




「親子は一世、夫婦は二世、主従は三世」の例文
- 家臣が親兄弟との別れを覚悟して主君に従う場面には、親子は一世、夫婦は二世、主従は三世という昔の忠義観が表れている。
- 古い芝居では、親子は一世、夫婦は二世、主従は三世という考えが、登場人物の決断を左右することがある。
- 歴史の先生は、親子は一世、夫婦は二世、主従は三世を取り上げ、中世の人々が重んじた縁について説明した。
- 親子は一世、夫婦は二世、主従は三世という言葉を知らなければ、家臣が主君のために命を懸ける古い物語は理解しにくい。
- その武将は、親子は一世、夫婦は二世、主従は三世という信念に従い、最後まで主君を守った。
- 親子は一世、夫婦は二世、主従は三世は、現代の人間関係の優劣ではなく、昔の縁と忠義の考え方を伝えることわざである。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2006年。
・小学館大辞泉編集部編、松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・『保元物語』1220年ごろ成立。
・『曾我物語』南北朝時代ごろ成立。
・『義経記』室町時代成立。
・『御曹子島渡』室町時代末期成立。
・松江重頼編『毛吹草』1645年。























