【ことわざ】
相惚れ自惚れ片惚れ岡惚れ
【読み方】
あいぼれうぬぼれかたぼれおかぼれ
【意味】
人を好きになる形には、両思い、ひとりよがりの恋、片思い、わきからひそかに寄せる恋など、さまざまな違いがあること。


【類義語】
・蓼食う虫も好き好き(たでくうむしもすきずき)
「相惚れ自惚れ片惚れ岡惚れ」の語源・由来
このことわざは、「惚れる(ほれる)」という言葉に「相」「自」「片」「岡」を添えた四つの言い方を並べ、恋心の向きや通じ方の違いを表します。「惚れる」は、現在では人に心を奪われて恋い慕う意味でよく使われますが、古くは、ぼんやりして放心したようになることも表しました。
『日本霊異記』(810〜824年成立・平安時代初期)には、雷に驚いて茫然とする文脈で、「雷慌(ホレテ)七日七夜留まりて在り」とあります。人に心を奪われて恋い慕う意味の「惚れる」は、室町時代後期の『福富長者物語』に用例が現れ、心が平静でなくなることを表す言葉が、恋によって夢中になることへと意味を広げていきました。
「相惚れ(あいぼれ)」は、互いに愛し合うこと、または愛し合う二人を指します。『犬枕』(1606年ごろ・江戸時代初期)には、「したたるき物、あひぼれの目元」とあり、「したたるき物」の一つとして、互いに思い合う人の目元が挙げられています。
「自惚れ(うぬぼれ)」は、本来、実際以上に自分を優れていると思い、得意になる気持ちを表します。『遊子方言(ゆうしほうげん)』(1770年ごろ・江戸時代中期、田舎老人多田爺作)には、「吉野やのきゃつめは、うぬぼれでいまいまし」とあり、自分を買いかぶる心を表す言葉として使われています。
このことわざに並べられた「自惚れ」は、互いに心を通わせる「相惚れ」とは異なり、相手の思いとは別に、自分の側で恋の成り行きを都合よく思い描く心を含ませています。恋の向きが一方に傾いたり、思い込みによってずれたりする様子を、四つの言葉の調子よい連なりの中で表しています。
「片惚れ(かたぼれ)」は、このことわざの中で片思いを表す言い方です。「片思い」という表現は古く、『万葉集』(8世紀後半成立・奈良時代)巻十八・四〇八一に、大伴坂上郎女が「可多於毛比」と詠んだ歌があります。自分の片思いを馬に背負わせて越の方へ送れば、相手も心を寄せてくれるだろうか、という歌で、一方から相手を慕う心を表しています。
「岡惚れ(おかぼれ)」の「おか」は、関係の外側にいることを表し、「傍惚」とも書きます。親しい交際のない相手や、ほかの人の恋人を、わきからひそかに恋い慕うことを指します。『十八公』(1729年・江戸時代中期)には、「岡ぼれは目もとの塩に当座漬」とあります。目元に心を引かれて、わきから寄せる恋を当座漬にたとえた句です。
こうして、互いに通じる恋、自分の思い込みに傾く恋、一方から寄せる恋、わきからひそかに寄せる恋が、一続きの言葉に並べられました。現在の「相惚れ自惚れ片惚れ岡惚れ」は、人が誰かを好きになる形は一様ではないことを表し、「蓼食う虫も好き好き」とほぼ同じ意味で用いられることわざです。
「相惚れ自惚れ片惚れ岡惚れ」の使い方




「相惚れ自惚れ片惚れ岡惚れ」の例文
- 恋愛小説の登場人物は、相惚れ自惚れ片惚れ岡惚れの関係になり、心のすれ違いが物語を動かした。
- 学芸会の台本は、相惚れ自惚れ片惚れ岡惚れを描いた喜劇で、役ごとの思いが交差している。
- 友人たちの恋の相談を聞くと、相惚れ自惚れ片惚れ岡惚れという言葉がよく当てはまる。
- 古い芝居には、相惚れ自惚れ片惚れ岡惚れの人間模様を巧みに描いた作品が少なくない。
- 会社を舞台にしたドラマは、相惚れ自惚れ片惚れ岡惚れのもつれから大きな誤解が生まれる筋立てだった。
- 祖母は若い二人の話を聞き、相惚れ自惚れ片惚れ岡惚れとはうまく言ったものだと笑った。
主な参考文献
・朝日新聞社知恵蔵編集部編『ことばの知恵袋 とっさの日本語便利帳』朝日新聞社、2003年。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・『日本霊異記』810〜824年成立。
・『犬枕』1606年ごろ。
・田舎老人多田爺『遊子方言』1770年ごろ。
・『万葉集』8世紀後半成立。
・『十八公』1729年。























