【ことわざ】
癖ある馬に乗りあり
【読み方】
くせあるうまにのりあり
【意味】
癖のある馬にも適した乗り方があるように、一癖ある人でも、接し方や任せ方しだいで、その個性を生かすことができるというたとえ。


【類義語】
・蹴る馬も乗り手次第(けるうまものりてしだい)
「癖ある馬に乗りあり」の語源・由来
「癖ある馬に乗りあり」は、癖のある馬と、その馬を扱う乗り手との関係を、人と人との関わり方に重ねたことわざです。ここでいう「乗り」とは、単に馬の背に乗ることではなく、その馬の性質を見極めたうえでの乗り方や扱い方を指します。
「癖」は、かたよった習慣だけでなく、その人や物に特有の性質や傾向、扱いにくいところなども表す言葉です。そのため「癖ある馬」は、決まった動きを繰り返す馬に限らず、気性や行動に独特なところがあり、誰にでも容易に扱えるわけではない馬を意味します。
このことわざの古い用例は、『北条氏直時代諺留(ほうじょううじなおじぶんことわざとめ)』(1599年ごろ・安土桃山時代、作者不詳)に収められています。この資料には、すでに現在と同じ形が記されていることから、少なくとも16世紀末には世間で用いられていた言い方だと分かります。
『北条氏直時代諺留』は、十三丁の写本が伝本として残ることわざ資料です。後に『北条氏直時分諺留』とも記されており、近世初めに伝わっていた数多くの言い回しを知るための資料となっています。
実際の馬には、人やほかの馬を蹴る蹴癖(しゅうへき)、かみつく咬癖(こうへき)、つながれることを嫌って後ずさりする癖など、さまざまな扱いにくさがあります。しかし、癖があるからといって、どの乗り手にも同じように振る舞うとは限りません。
馬は、乗り手の技術や気持ちを敏感に受け取り、接し方によって動き方を変えることがあります。強引に動かそうとすれば力を発揮しない馬でも、その性質を理解して手綱を取る人にはよく応えることがあり、こうした具体的な経験が「癖のある馬にも乗り方がある」という発想の土台になっています。
よく似た「癖ある馬に能あり」は、一癖ある人には、ほかの人にない優れた能力があるという意味です。それに対して「癖ある馬に乗りあり」は、その人が必ず特別な才能を持つと言うのではなく、癖のある人にも、その個性を生かせる接し方や役割があるという点に重きを置いています。
こうして、もとは癖のある馬を乗りこなす知恵を表した言葉が、人の強い個性を一方的に欠点とせず、相手に合った接し方を探すことの大切さを示すことわざになりました。人を変えようとするだけでなく、任せ方や伝え方を工夫する側にも目を向ける表現です。
「癖ある馬に乗りあり」の使い方




「癖ある馬に乗りあり」の例文
- 新しい部員は主張が強いが、癖ある馬に乗りありで、役割を工夫すれば企画力が生きる。
- 癖ある馬に乗りありというように、頑固な職人にも仕事を任せるこつがある。
- 父は癖ある馬に乗りありと考え、独特な集中の仕方をする弟に静かな部屋を用意した。
- 監督は癖ある馬に乗りありと心得、選手ごとに声のかけ方を変えた。
- 地域の係では、癖ある馬に乗りありの考えで、意見の強い人に交渉役を任せた。
- 友人の細かなこだわりも、癖ある馬に乗りありで、模型作りでは大きな強みになった。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・ことわざ研究会編、金子武雄監修『俚諺資料集成 第1巻』大空社、1986年。
・馬場俊臣「『馬』に関することわざ―『馬』をどう捉えてきたか」『札幌国語研究』第20号、北海道教育大学国語国文学会、2015年。
・『北条氏直時代諺留』1599年ごろ。























