【ことわざ】
口も八丁手も八丁
【読み方】
くちもはっちょうてもはっちょう
【意味】
しゃべることも、実際に物事を行うことも非常に達者なこと。また、話術と実行力の両方を備えた人のたとえ。


【英語】
・a good talker and efficient worker who gets things done.(話が上手で、仕事も手際よく成し遂げる人)
【類義語】
・手八丁口八丁(てはっちょうくちはっちょう)
・口八丁手八丁(くちはっちょうてはっちょう)
「口も八丁手も八丁」の語源・由来
このことわざの意味を理解する鍵は、「八丁」という言葉にあります。ここでいう「八丁」は、長さや距離を表す八丁ではなく、「八挺」とも書き、八つの道具を使いこなすほど物事に巧みであること、何事にも達者であることを表します。したがって、「口も八丁」は話すことに巧みであり、「手も八丁」は手を動かして物事を行うことにも巧みである、という意味になります。
現在知られている古い用例の一つは、十返舎一九の黄表紙(きびょうし)『的中地本問屋(あたりやしたじほんどいや)』(1802年・江戸時代後期、十返舎一九作・画)に見られます。この作品は、江戸の地本問屋(じほんどいや)を舞台に、原稿の作成から版木彫り、印刷、製本、販売に至るまでの本作りの様子を、滑稽に描いたものです。
その製本の場面に、「口も八丁手も八丁といふ女ばばかかに綴ぢさせける故」という一節があります。本を綴じる仕事を、話すことにも手仕事にも達者な女性に任せたという文脈であり、この時点ですでに、口先だけでなく、実際の作業も巧みにこなす人を表す言い方として使われています。
その後、小林一茶の『八番日記』(文政2〜4年・1819〜1821年、江戸時代後期)には、「手八丁口八丁やころもがへ」という句が記されています。ここでは「手」と「口」の順が逆になっていますが、話す力と手を動かす力とを一組にして、人の達者さを表す点は同じです。「手八丁口八丁」という形も、江戸時代には使われていたことが分かります。
昭和初期になると、細田民樹の小説『真理の春』(昭和5年)に、「口八丁手八丁」という「も」を省いた形が出てきます。この形は、現在も「口も八丁手も八丁」と同じ意味で使われており、長い言い回しを短くまとめた異形として定着しました。
さらに、坂口安吾の『文化祭』(昭和29年)では、青年団の中心として活躍する人物を「口も八丁、手も八丁」と表しています。この用例では、話が上手であるだけでなく、周囲をまとめ、実際の仕事も進められる有能な人物という、ほめる意味合いが強く表れています。
一方、「八丁」には、あまりにも器用で、抜け目なく立ち回る人をやや低く見る語感もあります。そのため、純粋なほめ言葉として使われる場合もあれば、「口も達者で仕事もできるが、油断のならない人だ」という皮肉を含む場合もあります。もとは、八つの道具を扱うほどの巧みさを表した言葉が、江戸時代の本作りの場面などで人の器用さを表すようになり、やがて、話術と実行力をともに備えた人を指すことわざとして定着したのです。
「口も八丁手も八丁」の使い方




「口も八丁手も八丁」の例文
- 彼は口も八丁手も八丁で、会議では意見をまとめ、準備作業も素早く進めた。
- 母は口も八丁手も八丁で、商店街の人々に協力を頼みながら、祭りの飾りも手作りした。
- 口も八丁手も八丁の友人は、自転車の直し方を説明しながら、故障した部分を手早く修理した。
- 新しい店長は口も八丁手も八丁で、客への応対も商品の陳列も見事にこなす。
- 彼女は口も八丁手も八丁だが、抜け目なく立ち回るところを警戒する人もいる。
- 町内会長は口も八丁手も八丁で、住民を説得しながら避難訓練の準備を着実に進めた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・近藤いね子・高野フミ編集主幹『小学館プログレッシブ和英中辞典 第4版』小学館、2011年。
・十返舎一九『的中地本問屋』村田屋治郎兵衛、1802年。
・小林一茶『八番日記』1819〜1821年。
・細田民樹『真理の春』中央公論社、1930年。
・坂口安吾『文化祭』1954年。























