【ことわざ】
後腹が病める
【読み方】
あとばらがやめる
【意味】
物事がすんだあとに、出費がかさんだり、障害が生じたりして苦しむこと。


【英語】
・a sting in the tail(終わりに出てくる思わぬ嫌な点)
【類義語】
・後腹病む(あとはらやむ)
「後腹が病める」の語源・由来
「後腹(あとばら)」は、もともと出産したあとの腹、特に腹痛を伴う場合を指す言葉です。古い形としては、「後腹・産後腹」を「しりはら」と読む言い方もあり、『十巻本和名抄』(934年ごろ)には、出産のあとの腹痛を表す語として出てきます。つまり、この言葉の出発点には、「大きな出来事が終わったあとにも、まだ体に痛みが残る」という具体的な経験がありました。
江戸時代前期の仮名草子(かなぞうし)『似我蜂物語(じがばちものがたり)』(1661年刊)にも、「あとはらのかぶりけるはひへかと存候」という用例があり、「後腹」は出産後の腹の具合、ことに腹痛を指す語として使われていました。ここでは、まだ現在のことわざのような社会的な苦労ではなく、実際の体の痛みに近い意味です。
この具体的な意味から、「一段落したあとに、なお面倒なことが残る」という比喩の意味が広がっていきます。『好色一代女(こうしょくいちだいおんな)』(1686年・江戸時代前期、井原西鶴作)には、「跡腹(アトハラ)やまずに仕切銀(しきりがね)のうち弐貫目出して」という形が出てきます。この用例では、出産そのものではなく、物事がまとまったあとにも金銭上の面倒が残ることを表しています。
さらに、『安倍宗任松浦簦(あべのむねとうまつらのきぬがさ)』(1737年初演・江戸時代中期、並木宗輔作の浄瑠璃)には、「跡腹(アトバラ)やめず」という形が出てきます。このころには、「跡腹」「後腹」という表記のゆれを伴いながら、出来事のあとに残る苦しみを表す言い方として、舞台の言葉の中にも用いられていました。
「後腹が病める」という形は、明治時代以降の文章にも受け継がれました。森鴎外の『妄想(もうそう)』(1911年・明治44年発表)では、「跡腹の病めないものは無い」「跡腹の病める、あらゆる福」という表現が使われ、楽しみや幸福と思われるものにも、あとで二日酔いのような苦しみが残る場合がある、という文脈で用いられています。
このように、「後腹が病める」は、出産後の腹痛という身体の痛みから出発し、江戸時代には事後の金銭的・人間関係的な面倒を表す比喩へ広がりました。現在では、終わったと思った物事のあとに、追加費用、後始末、思わぬ障害が出て苦しむことを言うことわざとして使われます。
「後腹が病める」の使い方




「後腹が病める」の例文
- 町内会の祭りは盛り上がったが、あとから会場の修理代を請求され、後腹が病めることになった。
- 安い中古自転車を買ったものの、部品交換が続いて後腹が病める。
- 契約を急いで結んだため、細かな追加料金が次々に出て後腹が病める。
- 家族旅行は楽しかったが、帰宅後に忘れ物の送料や写真代が重なり、後腹が病める思いをした。
- 友人同士で店を始めたものの、閉店後の借金整理で後腹が病めることになった。
- 体育館の飾り付けは無事に終わったが、片づけで壁紙の傷が見つかり、後腹が病める結果となった。
主な参考文献
・松村明編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・Oxford University Press『Oxford Advanced Learner’s Dictionary』Oxford University Press。
・『十巻本和名抄』934年ごろ。
・『似我蜂物語』1661年。
・井原西鶴『好色一代女』1686年。
・並木宗輔『安倍宗任松浦簦』1737年。
・森鴎外『妄想』1911年。























