【ことわざ】
閻魔の色事
【読み方】
えんまのいろごと
【意味】
釣り合わないこと。まったく不似合いなことのたとえ。


【英語】
・an odd match(不釣り合いな組み合わせ)
・a mismatch(合わない組み合わせ、不適合)
【類義語】
・老いの恋(おいのこい)
・尼御前の紅(あまごぜのべに)
・乞食に膳椀(こじきにぜんわん)
【対義語】
・似合いの夫婦(にあいのふうふ)
「閻魔の色事」の語源・由来
「閻魔の色事」は、恐ろしい閻魔に、恋愛や情事を意味する「色事」が結びつくところに、おかしみと違和感をもたせたことわざです。閻魔は、仏教で冥界や地獄の王とされ、死者の生前の行いを裁く存在として広く知られています。
「色事」は、男女間の恋愛や情事を表す言葉です。また、芝居で男女の情事を演じるしぐさや、その役柄を指すこともあります。
このことわざの面白さは、閻魔のもつ厳しく恐ろしい印象と、色事のもつ恋愛的・情緒的な印象とが、まったく釣り合わない点にあります。地獄で罪を裁く閻魔が、恋の話にうつつを抜かすという取り合わせは、聞いた瞬間に不似合いだと分かるため、強い比喩になっています。
閻魔の原型は、インドの神格ヤマにさかのぼります。仏教に取り入れられてから、閻魔は冥界の王、地獄の王として、人の死後に善悪を裁く存在と考えられるようになりました。
日本でも、閻魔は仏教伝来後に広まり、死者の罪を裁く恐ろしい王として民間に親しまれました。「嘘をつくと閻魔様に舌を抜かれる」という言い方にも、その厳しい裁きの印象がよく表れています。
一方、「色事」は江戸時代の浄瑠璃や歌舞伎にも用例があり、恋愛や情事、また芝居における男女の情愛のしぐさを表す言葉として使われました。つまり、「閻魔」と「色事」は、片方が裁きや恐ろしさを、もう片方が恋愛や情緒を連想させる、性質の遠い言葉どうしです。
この離れた二つを結びつけたところに、「閻魔の色事」ということわざの核心があります。恐ろしい裁判官のような閻魔に、恋愛沙汰はあまりにも似合わないため、そこから「釣り合わないこと」「まったく不似合いなこと」という意味が生まれました。
このことわざは、尾張いろはかるたの一つとしても伝わっています。いろはかるたは、いろは四十八文字を頭字としてことわざを集めたもので、江戸・上方・尾張など、地域によって収める言葉に違いがありました。
尾張のいろはかるたについては、尾張の心学者である小山駿亭の著書に載る「たとえ」を、尾張いろはかるたとすることがあります。そこでは「え」の札にあたる言葉として、「閻魔の色事」が伝えられています。
このように、「閻魔の色事」は、古典の一場面から生まれた故事ではなく、閻魔というよく知られた存在の印象を利用した、しゃれ味のあることわざです。恐ろしいものと恋愛という不似合いな取り合わせによって、物事の不釣り合いを分かりやすく表しています。
現在使う場合は、単に「少し変わっている」という程度ではなく、身分・性質・雰囲気・役割などが大きく合わないときに用いると、言葉の意味がよく生きます。ふさわしくない組み合わせを、少し皮肉をこめて言い表すことわざです。
「閻魔の色事」の使い方




「閻魔の色事」の例文
- 厳格で有名な校長先生が、派手な恋愛劇の主役を演じるとは、閻魔の色事のような取り合わせだ。
- 重々しい追悼式の会場に軽い恋愛ソングを流すのは、閻魔の色事というほかない。
- 質素な茶室にきらびやかな電飾を飾る案は、閻魔の色事のように不似合いだった。
- 昔ながらの厳粛な祭りに、場違いな恋愛寸劇を入れるのは、閻魔の色事になりかねない。
- こわもての将軍役に甘い恋のせりふばかり言わせる演出は、閻魔の色事に見えた。
- 格式ある式典で軽すぎる余興を続ければ、閻魔の色事と受け取られても仕方がない。
主な参考文献
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・平凡社編『世界大百科事典』平凡社。
・池田弥三郎・檜谷昭彦著『いろはかるた物語』角川書店、1973年。























