【ことわざ】
氏無くして玉の輿
【読み方】
うじなくしてたまのこし
【意味】
女性は家柄が高くなくても、器量や運によって富貴な人の妻となり、高い身分を得ることがあるというたとえ。


【英語】
・marry into money(裕福な人と結婚する)
【類義語】
・玉の輿に乗る(たまのこしにのる)
「氏無くして玉の輿」の語源・由来
「氏無くして玉の輿」の「氏」は、ここでは単に名字がないことではなく、家柄や家系が高くないことを表します。生まれた家の身分が低くても、結婚をきっかけに富や地位を得ることがあるという、昔の社会の見方を言い表したことわざです。
「玉の輿」の「輿(こし)」は、人を乗せた台を、人の力で担いだり、持ち上げたりして運ぶ乗り物です。貴人が用いる美しく立派な輿に、ほめたたえる意味をもつ「玉」の字を添えて、「玉の輿」と呼びました。
「玉の輿」という言葉は、もともと結婚を表すものではありません。『法華修法一百座聞書抄』(1110年・平安時代後期)には、国王が乗る立派な乗り物を指す「玉のこし」という語が出てきます。
この段階の「玉の輿」は、文字どおり貴い人が乗る美しい輿を表しています。身分の低い女性が裕福な人と結婚するという、現在の比喩的な意味は、まだ前面に出ていません。
ことわざの古い形は、『毛吹草(けふきぐさ)』(寛永15年・1638年序、江戸時代前期、松江重頼編)巻二に出てきます。『毛吹草』は、俳諧(はいかい)に関する七巻五冊の書物です。
そこには、「美目は果報のもとひ 女は氏なうて玉の輿に乗」とあります。美しい容貌は幸運のもとになり、女性は立派な家柄の生まれでなくても、富貴な人に見いだされて高い身分を得ることがある、という意味です。
原文の「なうて」は、現代語の「なくて」に当たる言い方です。「女は氏なうて玉の輿に乗る」という長い形から、「女は」と「乗る」を省き、要点をまとめた形が「氏無くして玉の輿」です。
この古い用例では、実際に豪華な輿に乗る姿と、結婚によって身分が上がることとが一つに重ねられています。貴人の妻となれば、その身分にふさわしい立派な輿に乗ることができるため、乗り物そのものが出世の象徴となったのです。
その後、『世間娘容気(せけんむすめかたぎ)』(1717年・江戸時代中期、江島其磧著)には、「思はぬ仕合に乗て来る玉の輿」という用例が出てきます。この作品は、江戸時代のさまざまな娘の性格や境遇を描いた浮世草子(うきよぞうし)です。
このころには、「玉の輿」は立派な乗り物を指すだけでなく、思いがけない幸運によって富貴な身分を得ることそのものを表すようになっていました。「玉の輿に乗る」という動作のたとえから、「玉の輿」だけでも、恵まれた結婚を表せるようになったのです。
「玉の輿」は、徳川綱吉の生母で、幼いころに「お玉」と呼ばれた桂昌院(けいしょういん)の名に由来するという言い伝えもあります。しかし、「玉の輿」は1110年の文献に、すでに乗り物の名として出ており、ことわざも1638年の用例をもつため、言葉そのものを桂昌院一人の逸話から生まれたものとすることはできません。
桂昌院は、身分の高くない家の出身で、徳川家光の側室となり、のちに将軍綱吉の母となった人物です。その生涯が「氏無くして玉の輿」の内容によく当てはまるため、言葉の起源ではなく、ことわざを思わせる代表的な人物として語り継がれたものと考えられます。
このように、「氏無くして玉の輿」は、貴人の立派な乗り物を表した「玉の輿」が、結婚による出世の象徴へと変わり、江戸時代にことわざとして定着した表現です。家柄によって将来が決まりやすかった昔の社会で、結婚によって思いがけず境遇が変わることを言い表しています。
「氏無くして玉の輿」の使い方




「氏無くして玉の輿」の例文
- 貧しい商家の娘が富豪の妻となった物語は、氏無くして玉の輿を思わせる。
- 身分の低かった女性が貴人に見初められたため、人々は氏無くして玉の輿だと驚いた。
- 氏無くして玉の輿ということわざには、結婚によって境遇が大きく変わる昔の社会が表れている。
- 祖母は古い物語の結末を、氏無くして玉の輿とはこのことだと評した。
- 町娘が大名家へ嫁ぐ芝居では、氏無くして玉の輿という筋書きが観客の関心を集めた。
- 氏無くして玉の輿の例として、家柄を越えて富貴な人の妻となった女性の逸話が語られた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・松江重頼編『毛吹草』寛永15年(1638)序。
・江島其磧『世間娘容気』1717年。























