【故事成語】
甘井先に竭く
【読み方】
かんせいさきにつく
【意味】
才能やすぐれた力のある人ほど、多く用いられて早く力を使い尽くし、衰えやすいことのたとえ。


【英語】
・The candle that burns twice as bright burns half as long.(強く働きすぎるものほど、早く燃え尽きる)
【類義語】
・山木自寇(さんぼくじこう)
・膏火自煎(こうかじせん)
【対義語】
・大器晩成(たいきばんせい)
「甘井先に竭く」の故事
この言葉のもとになったのは、中国の思想書『荘子(そうじ)』外篇「山木」に出てくる「直木先伐,甘井先竭」という句です。『荘子』は、戦国時代の思想家である荘周とその後学に関わる書物として伝わり、内篇・外篇・雑篇から成る三十三篇の思想書です。
『荘子』「山木」では、孔子が陳と蔡の間で苦しんでいるところへ、大公任が見舞いに来ます。大公任は、東海にいる「意怠」という鳥をたとえに出し、目立ちすぎず、先を争わず、仲間の中で身を守るあり方を語ります。
その流れの中で、「直木先伐,甘井先竭」とあります。これは、まっすぐで役に立つ木は先に伐られ、よい水の出る井戸は人が多く水を汲むため、先に尽きる、という意味です。
ここでいう「甘井」は、もとは甘くよい水のわく井戸を指します。その井戸は人々に喜ばれ、多くの人に使われるため、ほかの井戸よりも早く水が尽きてしまいます。
この具体的なたとえが、人間の才能や長所を表す比喩になりました。すぐれた力をもつ人は、人から頼られ、重く用いられるため、その力を早く使い果たしてしまう、という意味へ広がったのです。
ただし、この故事は「才能をもつことが悪い」と言っているのではありません。『荘子』の思想には、目立つ有用さがかえって身に災いを招くという見方があり、この言葉もその流れの中で理解できます。
表記の面では、漢文では「甘井先竭」と書きます。日本語では、四字の形で「甘井先竭(かんせいせんけつ)」とも、読み下した形で「甘井先ず竭く」とも用いられます。
対象語の「甘井先に竭く」は、「先ず」を分かりやすく「先に」とした形です。もとの句と同じく、よい井戸が先に涸れることから、才能ある人ほど早く消耗しやすいという意味を表します。
この句は、後の時代の類書にも受け継がれました。『藝文類聚』や『太平御覽』には同じ句や近い形が載り、場所によっては「甘泉先竭」という形も出てきます。
北宋の文人・政治家である蘇軾(そしょく)は、『次韻王定國南遷回見寄』で「君知先竭是甘井,我願得全如苦李」と詠んでいます。甘い井戸は先に尽き、苦い李は人に取られにくいため残る、という対比によって、名声や才能に引き寄せられる危うさを表しています。
現在の「甘井先に竭く」は、有能な人が早く衰えるという意味だけでなく、有能な人ほど周囲から頼られ、力を消耗しやすいという戒めとしても読める言葉です。よい井戸の水を汲み尽くすように、一人の才能に頼りすぎれば、その人の力を早く弱らせてしまいます。
「甘井先に竭く」の使い方




「甘井先に竭く」の例文
- 才能のある人に仕事が集まりすぎると、甘井先に竭くということになりかねない。
- 若い選手を休ませず試合に出し続ければ、甘井先に竭くのように力を失ってしまう。
- 会社は優秀な社員に頼りきりで、甘井先に竭くという危うさに気づいていなかった。
- 人気のある作家に無理な連載を重ねさせるのは、甘井先に竭くを招くおそれがある。
- 家族の用事を一人に任せ続けると、甘井先に竭くのように、その人だけが疲れきる。
- 甘井先に竭くを避けるため、合唱の伴奏は一人に任せず交代で練習することにした。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・集英社辞典編集部編『スピーチに役立つ四字熟語辞典』集英社。
・日本漢字能力検定協会『漢検 漢字ペディア』日本漢字能力検定協会。
・『荘子』。
・欧陽詢等撰『藝文類聚』唐代。
・李昉等奉勅撰『太平御覽』北宋、10世紀。
・蘇軾『蘇軾詩集』。























