【ことわざ】
学若し成らずんば死すとも帰らず
【読み方】
がくもしならずんばしすともかえらず
【意味】
学業がもし成し遂げられなかったら、死んでも故郷には帰らないということ。故郷を離れて勉学に志す者の強い決心を表す。


【英語】
・I will not return until I have completed my studies.(学業を成し遂げるまでは帰らない)
・No pain, no gain.(努力なくして成果なし)
【類義語】
・初志貫徹(しょしかんてつ)
・背水の陣(はいすいのじん)
・学問に王道なし(がくもんにおうどうなし)
【対義語】
・中途半端(ちゅうとはんぱ)
「学若し成らずんば死すとも帰らず」の語源・由来
「学若し成らずんば死すとも帰らず」は、日本の漢詩に由来することわざです。もとになった形は、幕末の僧で詩人でもあった釈月性の詩「将東遊題壁」に出てくる「学若無成死不還」という一句です。
「将東遊題壁」は、月性が1843年に作った詩として伝わります。題名は、東の方へ遊学しようとして壁に書きつける、という意味をもっています。
この詩は、「男児立志出郷関」から始まります。志を立てた者が故郷の関門を出て、学問を成し遂げられなければ死んでも帰らない、という流れで、故郷を離れて学びに向かう強い決意を述べています。
原詩の第二句は「学若無成死不還」と記されています。書き下すと「学もし成るなくんば、死すとも還らず」となり、学問が成就しないなら、たとえ死んでも帰らない、という意味です。
現在よく用いられる「学若し成らずんば死すとも帰らず」は、この漢詩の句を日本語のことわざとして読み下した形です。「無成」を「成らずんば」とほどき、「不還」を「帰らず」と読むことで、学問に対する覚悟が分かりやすい日本語になっています。
このことわざでいう「学」は、単に学校の勉強だけを指すのではありません。学問、修業、研究、技術の習得など、自分を高めるために力を尽くして学ぶこと全体を含みます。
「死すとも帰らず」は、文字どおり死をすすめる言葉ではありません。自分で立てた志を途中で投げ出さず、成果を得るまでは安易に故郷へ戻らないという、非常に強い決意を表す言い方です。
この詩は、月性が二十代で故郷の山口を出て、大阪の儒者である篠崎小竹のもとへ学びに行こうとした時の詩として伝わります。故郷を離れる不安よりも、学問を成し遂げようとする志を前面に出しているところに、この一句の力強さがあります。
同じ詩には、「人間到る処青山有り」という句も含まれます。これは、骨を埋める場所は故郷の墓地に限らず、世の中のどこにでも青い山はある、という意味で、志のためなら故郷にこだわらない心を表しています。
表記には、いくつかの形があります。「学若不成死不還」とする形、「学若無成死不還」とする形、また「学若無成不復還」とする形などが伝わり、読み下しでは「成らずんば」「成るなくんば」などの違いも出ます。
作者についても、広くは月性の詩として知られますが、詩吟関係の資料には村松文三の「壁に題す」として掲げる系統もあります。そのため、由来を述べるときは、月性の「将東遊題壁」による形が広く知られる一方、伝承や掲出のされ方には揺れがあることを踏まえる必要があります。
日本語の用例としては、明治時代の小説『社会百面相』(1902年、内田魯庵著)に、「故郷を出る時は矢張人並に学若し成らずんば死すとも帰らずと力んだが」という形が出てきます。ここでは、若者が故郷を出る時の意気込みを表す言葉として使われています。
このように、「学若し成らずんば死すとも帰らず」は、漢詩の一句から、学問に志す者の覚悟を表すことわざとして定着しました。現在では、故郷を離れる場合だけでなく、大きな目標に向かって退路を断つほど真剣に努力する場面にも用いられます。
「学若し成らずんば死すとも帰らず」の使い方




「学若し成らずんば死すとも帰らず」の例文
- 学若し成らずんば死すとも帰らずの覚悟で、兄は故郷を離れて専門学校へ進んだ。
- 彼女は学若し成らずんば死すとも帰らずと心に決め、留学先で毎日研究に打ち込んだ。
- 学若し成らずんば死すとも帰らずという言葉どおり、彼は資格試験に合格するまで遊びの時間を減らした。
- 職人を目指す青年は、学若し成らずんば死すとも帰らずの思いで親方のもとに住み込んだ。
- 学若し成らずんば死すとも帰らずの精神は、進学だけでなく、芸術や技術を身につける修業にも通じる。
- 都会へ出た友人は、学若し成らずんば死すとも帰らずと誓い、看護の勉強を最後までやり抜いた。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・月性『将東遊題壁』1843年。
・月性『清狂遺稿』1892年。
・細川景一『枯木再び花を生ず 禅語に学ぶ生き方』禅文化研究所、2000年。
・内田魯庵『社会百面相』1902年。























