【ことわざ】
聞き上手の話下手
【読み方】
ききじょうずのはなしべた
【意味】
人の話を上手に聞く人は、自分から話すことは下手なことが多い、ということ。


【英語】
・a good listener but a poor speaker.(聞くのは上手だが、話すのは得意でない人)
【類義語】
・語り下手の聞き上手(かたりべたのききじょうず)
【対義語】
・話上手の聞き下手(はなしじょうずのききべた)
「聞き上手の話下手」の語源・由来
このことわざは、中国古典の人物や出来事から生まれた故事ではなく、会話における「聞く力」と「話す力」を対にしてまとめた言い方です。「聞き上手」は、相手にうまく応答し、気分よく十分に話をさせる人を指します。「話下手」は、話が下手であること、また、そのような人を指します。二つを合わせることで、会話の中で聞くことは巧みでも、自分から話すことは苦手な人を表します。
「聞く力」と「語る力」を対に見る考えは、かなり古くから日本語の表現の中にあります。『沙金袋(さきんぶくろ)』(1657年・江戸時代前期、西武編)には「聞下手やかたり上手の郭公」という用例があり、聞き方の下手さと語ることの上手さを並べる発想が出てきます。ここには、話す側と聞く側の力を別のものとしてとらえる感覚が、俳諧の軽みの中で用いられています。
一方、「話下手」という言葉も、江戸時代には使われていました。『軽口頓作(かるくちとんさく)』(江戸時代中期、雲鼓編)の用例には「まだるいなあ・ねぢ切るやうな咄し下手」とあり、話がすらすら進まず、聞く人をもどかしくさせるような話しぶりを指しています。ここでは、「話下手」が、単に声が小さいという意味ではなく、話の運び方そのものがうまくないことを表しています。
江戸時代後期の『譬喩尽(たとえづくし)』(1786年序、松葉軒東井編)には、「話上手の聞き下手」が出てきます。これは、自分ばかり話し立てて、他人の話を聞こうとしないことをいう表現です。話すことと聞くことを反対向きに組み合わせ、人の会話のくせを短く言い表す形は、江戸後期にはことわざとして整っていました。
明治末には、「聞上手ノ話下手」という形で、「人の談話を聞くに巧なる人は、自ら語るに拙なり」と表す例が出てきます。これは、現在の「聞き上手の話下手」とほぼ同じ組み立てです。「談話を聞くに巧なる」とは、人の話を受け止めるのがうまいということであり、「自ら語るに拙なり」とは、自分で話すのは器用でないという意味です。
この表現は、話すのが苦手な人を単にけなす言葉ではありません。むしろ、会話には「話す」だけでなく「聞く」という働きがあり、その二つが同じ人の中で必ずしも同じように強いとは限らない、という人間観察を表しています。後には、「話し上手は聞き上手」のように、聞く力を話す力の土台と見ることわざも広まり、会話では聞くことの大切さがさらに強く意識されるようになりました。
現在の「聞き上手の話下手」は、こうした「聞く・話す」「上手・下手」の対比から理解できます。よく相手の話を引き出せる人でも、自分の考えを長く話したり、大勢の前で説明したりするのは苦手なことがあります。そのような人の会話の特徴を、短く、やわらかく言い表すことわざとして用いられます。
「聞き上手の話下手」の使い方




「聞き上手の話下手」の例文
- 姉は友人の相談にじっくり耳を傾けるが、自分の体験を話すとなると聞き上手の話下手になる。
- 山田さんは会議で人の意見を引き出すのがうまく、発表では言葉を選びすぎる聞き上手の話下手だ。
- 聞き上手の話下手の兄は、家族の悩みを受け止めるのは得意だが、自分の気持ちはなかなか口にしない。
- 地域の集まりで人気のある佐藤さんは、聞き上手の話下手で、人の話をまとめる役に向いている。
- 友人は聞き上手の話下手なので、作文ではよい感想を書けるのに、前に立って話すと緊張してしまう。
- 聞き上手の話下手だからといって、会話が苦手とは限らず、相手が安心して話せる場を作る力がある。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・藤井乙男編『諺語大辞典』有朋堂、1910年。
・松葉軒東井編『譬喩尽』1786年序。
・西武編『沙金袋』1657年。
・雲鼓編『軽口頓作』1712年刊。























