【ことわざ】
曲者の空笑い
【読み方】
くせもののそらわらい
【意味】
一癖あって油断できない者が、本心を隠して見せる信用できない作り笑い。


【英語】
・an insincere smile.(本心のない不誠実な笑顔)
【類義語】
・似非者の空笑い(えせもののそらわらい)
「曲者の空笑い」の語源・由来
「曲者の空笑い」は、「曲者」と「空笑い」を組み合わせたことわざです。ここでいう「曲者」は、単に変わった人を指すのではなく、腹の内が分からず、油断できない者という意味です。「空笑い」は、おかしくもないのに無理に笑うこと、すなわち、作り笑いを指します。
「曲者」という言葉は、中世からさまざまな意味で使われてきました。『平家物語』(13世紀前半成立、鎌倉時代)では、普通とは異なる一癖ある人物を表し、『曾我物語』(南北朝時代ごろ成立)では、悪者や不心得者を指す用例が出てきます。さらに、えたいが知れず危険な者や、用心しなければならない者という意味にも広がりました。
一方、「空笑い」は、このことわざが成立する以前から使われていた言葉です。『太平記(たいへいき)』(14世紀後半ごろ成立、南北朝時代)の巻九には、中吉弥八が敵をだまして命を逃れる場面で、「空笑してこそ返しけれ」とあります。弥八は、六波羅(ろくはら)の焼け跡に大金が埋められているとうそをつき、相手を連れて行ったあと、すでに誰かが掘り出したのだろうと言って作り笑いをし、その場を立ち去ります。
この用例における「空笑い」は、困って無理に笑うだけのものではありません。相手を欺いたまま本心を隠し、その場をごまかすための笑いです。このように、空笑いには古くから、言葉や表情の裏に本当の意図を隠すという意味合いがありました。
「曲者の空笑い」というまとまった形は、『世話尽(せわづくし)』(1656年・江戸時代前期、皆虚編)の巻二に収められています。皆虚は土佐の円満寺の僧であり、俳人でもありました。『世話尽』は、俳諧(はいかい)に用いる言葉や、世間で言い伝えられていた俗語・ことわざなどを集めた全五巻の書物です。
『世話尽』にこの言い方が収められていることから、少なくとも17世紀半ばには、一癖あって信用しにくい者の作り笑いを表す言葉として用いられていたことが分かります。「曲者」が表す油断ならない人物像と、「空笑い」が表す本心のない笑いとが結び付き、笑顔の裏を警戒する教えになりました。
よく似た言い方に「似非者の空笑い」があります。「似非者」は、見かけだけで中身が伴わない者や、いかがわしい者を指します。このことわざも、おかしくもないのに相手の機嫌を取ろうとして見せる追従笑いを表しており、「曲者の空笑い」とほぼ同じ戒めを伝えています。
現在の「曲者の空笑い」は、すべての作り笑いを非難する言葉ではありません。緊張や気まずさから思わず笑ってしまう場合ではなく、下心やたくらみを隠し、相手を安心させようとして浮かべる、信用できない笑顔を指します。外見の愛想のよさだけに惑わされず、その人の言葉や行動をよく見定めるよう戒めることわざです。
「曲者の空笑い」の使い方




「曲者の空笑い」の例文
- 容疑を問われた男は曲者の空笑いを浮かべ、何も知らないと言い張った。
- 彼の曲者の空笑いを見て、交渉相手は何か裏があると警戒した。
- 証拠を隠した犯人が見せる曲者の空笑いに、刑事は不信を抱いた。
- 店主は客に愛想よく接していたが、その曲者の空笑いには油断できないものがあった。
- 曲者の空笑いを浮かべる男の言葉を、村人たちはすぐには信用しなかった。
- 物語の悪役は曲者の空笑いを見せながら、ひそかに次の計略を進めていた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・小学館大辞泉編集部編、松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・鈴木棠三・広田栄太郎編『故事ことわざ辞典』東京堂出版、1956年。
・皆虚編『世話尽』西田庄兵衛、1656年。
・『太平記』14世紀後半ごろも正し成立。























