【慣用句】
お鉢が回る
【読み方】
おはちがまわる
【意味】
順番が巡ってきて、自分の番になること。


【英語】
・My turn has come(自分の番が回ってきた)
【類義語】
・回り番(まわりばん)
「お鉢が回る」の語源・由来
「お鉢が回る」の「お鉢」は、炊いた飯を入れておく木製の器、すなわち飯櫃(めしびつ)やおひつを指します。「御鉢」「御櫃」とも書き、火山の火口を表す「お鉢」とは別の意味です。
「お鉢」という言葉の古い例は、伊藤幸氏・伊藤幸元による『女中詞(じょちゅうことば)』(1692年・江戸時代前期)にあります。この時代には、飯を入れる木製の器を指す呼び名として、すでに用いられていました。
多くの人が集まる食事の席では、飯櫃を人から人へ回し、自分のところへ来たときに飯をよそいました。人数が多ければ、飯櫃はなかなか自分のところまで来ません。こうして、ようやく飯櫃が回ってくる様子を、順番や役目が巡ってくることに重ねたのが、この表現のもとです。
江戸時代後期には、太田全斎が俗語・方言・ことわざなどを集めた『俚言集覧(りげんしゅうらん)』(寛政9年〔1797年〕以後成立)に、「お鉢が回る」が載っています。このことから、遅くとも江戸時代後期には、順番が巡ってくることを表す言い方として使われていたことが分かります。
式亭三馬の滑稽本(こっけいぼん)『浮世床(うきよどこ)』(1813年・江戸時代後期)初編には、「おれが番か、ありがたい。やっとの事でお鉢が廻って来た」とあります。『浮世床』は、髪結い床に集まる江戸の人々の会話を中心に描いた作品で、当時の話し言葉をよく伝えています。
この用例では、自分の番が来たことを「ありがたい」と喜んでいます。したがって、「お鉢が回る」は、もともと迷惑な役目を押し付けられることだけを表したのではなく、待っていた順番や望ましい機会が、ようやく自分に巡ってくる場合にも使われていました。
その後、「お鉢」は、器そのものだけでなく、「順番」という意味でも使われるようになりました。岸田国士の戯曲『古い玩具』(1924年)には、いったんほかへ移った機会が元へ戻ることを表す「お鉢の逆戻り」という用例があります。器を表す言葉が、回ってくる番や役目そのものを指すようになった例です。
現在では、町内会の役員、行事の幹事、難しい仕事など、引き受けるのが少し気の重い役目について使うことが少なくありません。しかし、言葉そのものに悪い意味が決まっているわけではなく、昇進、出演、希望していた仕事など、うれしい機会が巡ってきた場合にも使えます。
このように、「お鉢が回る」は、食事の席を巡る飯櫃の動きから生まれ、順番・役目・機会が人から人へ移り、ついに自分の番になることを表すようになった慣用句です。
「お鉢が回る」の使い方




「お鉢が回る」の例文
- 今年は父に町内会長のお鉢が回る。
- 次の司会は、長く裏方を務めてきた彼女にお鉢が回ることになった。
- 難しい苦情対応のお鉢が回ると、担当者は資料を読み直した。
- いつか主役のお鉢が回る日を信じ、彼は毎日稽古を続けた。
- 交代制なので、来月は我が家に清掃当番のお鉢が回る。
- 部長が退職すれば、若い課長に責任者のお鉢が回る可能性がある。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館国語辞典編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・近藤いね子・高野フミ編集主幹『プログレッシブ和英中辞典 第4版』小学館、2011年。
・伊藤幸氏・伊藤幸元『女中詞』1692年。
・太田全斎『俚言集覧』1797年以後成立。
・式亭三馬『浮世床』1813〜1814年。























