【慣用句】
御先棒を担ぐ
【読み方】
おさきぼうをかつぐ
【意味】
軽々しく人の手先となり、その人のために行動すること。


【英語】
・be someone’s cat’s-paw(人に利用される手先となる)
【類義語】
・片棒を担ぐ(かたぼうをかつぐ)
「御先棒を担ぐ」の語源・由来
「御先棒を担ぐ」の「御先棒」は、「先棒」に接頭語(せっとうご)の「お」を添えた言葉です。「先棒」は、駕籠(かご)などを二人で担ぐときに、前の方を担ぐ人を指し、「先肩(さきかた)」ともいいます。これに対して、後ろを担ぐ人は「後棒(あとぼう)」と呼びます。
駕籠は、人が座る部分を一本の棒につるし、ふつうは担ぎ手が棒の前後を支えて運ぶ乗り物です。先棒は単独で荷を運ぶのではなく、後棒と歩調を合わせながら、乗っている人と駕籠の重さを前方で支える役目を担っていました。
「先棒」の具体的な意味を示す古い用例は、『東海道中膝栗毛(とうかいどうちゅうひざくりげ)』(1802〜1809年・江戸時代後期、十返舎一九作)の初編に出てきます。駕籠かきの会話の中に「さきぼう」とあり、この段階では、前方を担ぐ人という実際の役目を表しています。
明治時代になると、「先棒」は、物を担ぐ人だけでなく、ある物事に先立って関わる人を表すようになります。『社会百面相(しゃかいひゃくめんそう)』(1902年・明治時代、内田魯庵著)には、演説会や政府への願い出の「先棒にもなる」とあり、活動の先頭に立つ人という意味で使われています。
さらに、『破戒(はかい)』(明治39年、島崎藤村著)では、選挙について人々がうわさを交わす舟の中の場面に、「君こそ御先棒に使役はれるんぢや無いか」とあります。ここでは、ある候補者のために使われる手先という意味で「御先棒」が用いられており、現在の意味に近い用法へと移っていることが分かります。
「御先棒を担ぐ」というまとまった形の古い用例としては、渡辺一夫の『人間が機械になることは避けられないものであろうか』(昭和23年)があります。そこでは、フランス愛国主義の「お先棒をかついでいる」のではないかという形で、ある思想に動かされ、その働きを助けることを表しています。
このように、「先棒」は、初めは駕籠などの前を担ぐ人を指していました。そこから、物事の先頭に立つ人、さらに、他人の意向に従って、その目的のために働く人へと意味が広がり、「御先棒を担ぐ」という慣用句として定着しました。
よく似た「片棒を担ぐ」は、ある企てや仕事に加わり、その一部を受け持つことを表します。一方、「御先棒を担ぐ」は、単に仲間として協力することよりも、他人の手先となって先に立って働くことに重点があります。
現在では、悪事や不公正な企てを助ける場合に用いることが多いものの、必ずしも犯罪だけを指すわけではありません。宣伝や主張をよく考えずに広め、結果として他人に利用されるような行動も、「御先棒を担ぐ」と表します。
「御先棒を担ぐ」の使い方




「御先棒を担ぐ」の例文
- 友人の作り話を広めれば、その友人の御先棒を担ぐことになる。
- 兄は、祖父に不要な商品を買わせようとする業者の御先棒を担ぐことを拒んだ。
- 根拠のない悪口を投稿し直すことは、誰かの御先棒を担ぐのと同じだ。
- 部長の一方的な主張を確かめずに広めた社員は、結果として部長の御先棒を担ぐことになった。
- 広告の内容をそのまま記事にすれば、その企業の御先棒を担ぐと批判されかねない。
- 彼は住民の不安をあおる計画の御先棒を担ぐまいと、依頼をきっぱり断った。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・十返舎一九『東海道中膝栗毛』1802〜1809年。
・内田魯庵『社会百面相』1902年。
・島崎藤村『破戒』1906年。
・渡辺一夫「人間が機械になることは避けられないものであろうか」『芸術』第9号、八雲書店、1948年。
・Merriam-Webster, “cat’s-paw,”『Merriam-Webster.com Dictionary』。























