【故事成語】
家貧しくして孝子顕る
【読み方】
いえまずしくしてこうしあらわる
【意味】
家が貧しいと、親に孝行を尽くす子の善行が、はっきり人に知られるということ。転じて、苦しい境遇になって初めて、誠実に支える者の真価が明らかになること。


「家貧しくして孝子顕る」の故事
「家貧しくして孝子顕る」は、中国の古い教訓の書物である『明心宝鑑(めいしんほうかん)』に基づく言葉です。『新刊大字明心宝鑑(しんかんだいじめいしんほうかん)』二巻には、明の范立本が編んだ書物であるとの記録があり、洪武二十六年(1393年)の范立本の序を備え、景泰五年(1454年)の跋をもつ本が伝わっています。
『明心宝鑑』には、「家貧顕孝子、世乱識忠臣」と記されています。「家が貧しくなれば孝行な子が明らかになり、世の中が乱れれば忠義ある家臣を知る」という意味です。家庭の苦しさと国の乱れとを並べ、平穏な時には目立たなかった人のまごころや忠義が、困難の中でははっきり表れることを述べています。
この一節の前には、「君聖臣忠、父慈子孝」とあります。立派な君主には忠義を尽くす家臣があり、慈しみ深い親には孝行な子があるという関係を述べたうえで、貧しい家や乱れた世のような厳しい境遇になると、その徳がいっそう明らかになるという流れで、言葉が続いています。
ここでいう「孝子」は、貧しさによって初めて孝行な心を持つようになる子というよりも、もともと親を大切に思い、苦しい時にも親を助けて行動する子を指します。暮らしにゆとりがある間は見えにくい善行も、食べ物や金銭に困る家では、働いて親を助けることや、自分の分を譲って親をいたわることとして、はっきり現れるという教えです。
また、原文では、「家貧顕孝子」のすぐ後に「世乱識忠臣」が続きます。家の貧しさが孝行な子を明らかにするのと同じように、世の乱れは、危険の中でも主君や国を支える忠実な家臣を明らかにします。この並びによって、身近な家庭の場でも大きな社会の場でも、苦難は人の誠実さを試し、その真価を表に出すものだと示しています。
日本語では、「家貧しくして孝子顕わる」のほか、「家貧しくして孝を顕わす」という形でも用いられてきました。日本での古い用例には、『夏炉一路(かろいちろ)』(1757年・江戸時代中期)の「籾する音」に記された「家貧して孝をあらはすとこそ聞なれ」があります。
この文章では、大和国(やまとのくに)の長尾の里で、あるじが年老いた母のために住まいの一部を整え、庭の木や石にも心を配り、母を慰めようとする姿が述べられています。そして、「家貧して孝をあらはす」とは聞くけれど、貧しくない身の上でなお親に孝を尽くすことも難しいものだ、という趣旨へと話が進みます。中国の教訓として伝わった言葉が、日本では、親をいたわる具体的な暮らしの場面を語る中でも用いられていたことが分かります。
こうして、「家貧しくして孝子顕る」は、貧しい家庭で親に尽くす子の善行が明らかになるという本来の意味から、広く、逆境においてこそ人の誠実さや支える力が分かるという意味でも用いられるようになりました。苦しい時に、行動で示されるまごころを重んじる言葉です。
「家貧しくして孝子顕る」の使い方




「家貧しくして孝子顕る」の例文
- 貧しい暮らしの中で母の看病を続けた少年の姿は、家貧しくして孝子顕るという言葉にふさわしい。
- 父を助けるために働きながら学問を続けた娘を見て、村人は家貧しくして孝子顕ると語り合った。
- 家貧しくして孝子顕るというように、苦しい時にこそ家族を思う心は行動に表れる。
- 古い物語の主人公は、食べ物に困る家で老いた親を支え、家貧しくして孝子顕るの教えを示した。
- 家貧しくして孝子顕るは、逆境の中で人の誠実さが明らかになることを表す故事成語である。
- 生活が苦しくなっても祖母を支え続けた兄の働きぶりに、妹は家貧しくして孝子顕るという言葉を思い出した。
主な参考文献
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・范立本編『新刊大字明心宝鑑』洪武26年序、景泰5年跋。
・『夏炉一路』1757年。























