【ことわざ】
浮気と乞食は止められぬ
【読み方】
うわきとこじきはやめられぬ
【意味】
浮気も乞食も、一度その味を覚えるとやめにくいことから、身についた悪い習慣はなかなか改められないというたとえ。


【英語】
・Old habits die hard(古くからの習慣はなかなか改まらない)
【類義語】
・乞食を三日すれば忘れられぬ(こじきをみっかすればわすれられぬ)
「浮気と乞食は止められぬ」の語源・由来
「浮気と乞食は止められぬ」は、「浮気」と「乞食」という二つの行いを並べ、いったん味を覚えると、抜け出しにくいものとして言い表した日本のことわざです。中国の古い故事ではなく、人間の習慣や心の弱さを皮肉った言い回しです。
このことわざでは、「浮気」の「き」と、「乞食」の末尾にある「き」の音が重なります。意味の似た二つの事柄を並べるだけでなく、音の調子も整えることで、口にしやすく、覚えやすい形になっています。
表記には、「浮気と乞食は止められぬ」と「浮気と乞食はやめられぬ」の二通りがあります。「止められぬ」の「止める」は、この場合、続けていた行いを中止する意味であるため、「とめられぬ」ではなく「やめられぬ」と読みます。
「浮気」という言葉は、もともと男女関係だけを指したものではありません。一つのことに心を定められず、気持ちが移りやすいことや、心が浮ついて思慮に欠けることも表してきました。
古い用例には、『甲陽軍鑑(こうようぐんかん)』(元和年間までに成立、江戸時代初期、著者には諸説あり)の「分別うは気になられ、備へ尽く違い候」があります。ここでの「うは気」は、恋愛上の不実ではなく、考えが浮ついて判断を誤る状態を表しています。
一方、江戸時代には、男女の間で心を移しやすいことを表す用法も広まりました。『好色一代女(こうしょくいちだいおんな)』(1686年・江戸時代前期、井原西鶴著)には、「傾城はうは気なる男をすけるによりて」とあり、異性関係に移り気な人を指す用法がうかがえます。
「乞食」は、もとは仏教で、僧が修行のために家々を訪ね、食物を乞うことを表し、「こつじき」と読みました。中世から近世にかけては、他人から食物や金銭を恵んでもらって暮らすことや、その人を指す「こじき」という読みと意味が一般的になりました。
乞食の暮らしはいったん経験するとやめにくい、という発想は、「浮気と乞食は止められぬ」以外のことわざにも現れます。その代表が「乞食を三日すれば忘れられぬ」です。
この言い方の古い用例は、浄瑠璃『糸桜本町育(いとざくらほんちょうそだち)』(1777年・江戸時代中期、紀上太郎著)にあります。「乞食三日すると忘られぬと」とあり、気楽な暮らしに慣れると、元の生活に戻っても忘れられないという文脈で使われています。
近代にも、中里介山の小説『大菩薩峠(だいぼさつとうげ)』(大正2年から昭和16年にかけて発表)で、「乞食を三日すれば忘れられん」という形が用いられました。このように、楽な習慣や人に頼る生活は抜けにくいという考えが、長くことわざとして語り継がれてきました。
「浮気と乞食は止められぬ」は、この「乞食を三日すれば忘れられぬ」と共通する発想に、やめにくい悪癖の例として「浮気」を組み合わせた形です。「うわき」と「こじき」の音を響かせながら、二つを同列に置くことで、誘惑に負けやすい人間の弱さを強く印象づけています。
現在では、浮気そのものだけでなく、本人がよくないと分かっている習慣を何度も繰り返す場面に広げて用いられます。ただし、貧しい境遇にある人を怠惰だと決めつける古い見方を含むため、人を非難したり、からかったりする目的で、安易に用いるべきことわざではありません。
「浮気と乞食は止められぬ」の使い方




「浮気と乞食は止められぬ」の例文
- 彼が同じ裏切りを繰り返すのを見て、祖父は浮気と乞食は止められぬと嘆いた。
- 浮気と乞食は止められぬという古いことわざは、悪い習慣を改める難しさを皮肉っている。
- その小説では、浮気と乞食は止められぬという言葉を用いて、主人公の意志の弱さを表している。
- 浮気と乞食は止められぬとはいうものの、本人が強く決意すれば生活を改めることはできる。
- 講師は、浮気と乞食は止められぬということわざには、昔の社会観も含まれていると述べた。
- 浮気と乞食は止められぬを人への悪口として使うのではなく、古い表現として慎重に扱う必要がある。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・『甲陽軍鑑』元和年間までに成立。
・井原西鶴『好色一代女』1686年。
・紀上太郎『糸桜本町育』1777年。
・Cambridge University Press, Cambridge Dictionary.























