【ことわざ】
蚊柱立てば雨
【読み方】
かばしらたてばあめ
【意味】
蚊柱が立つと、やがて雨が降ることが多いという天気の言い伝え。


【類義語】
・蚊がうすづけば雨が降る(かがうすづけばあめがふる)
・ウンカのもちつき雨を呼ぶ(うんかのもちつきあめをよぶ)
「蚊柱立てば雨」の語源・由来
「蚊柱立てば雨」は、虫の群れ方とその後の天気との関係を、長年の経験から言い表したことわざです。蚊柱が現れると雨が近いと見る、暮らしの中の天気の目安として伝えられてきました。
「蚊柱(かばしら)」は、夏の夕方などに、蚊やユスリカの仲間が群れをなして飛び、柱のように連なって見えるものを指します。種類によっては、数十匹から数百匹が集まり、上下に動きながら飛び続けます。
蚊柱を作る虫の多くは雄で、群れの中に雌が入り、交尾します。したがって、蚊柱は虫がただ無秩序に集まったものではなく、子孫を残すための群飛です。
日本では古くから、このような虫の群飛を季節や天候の変化と結び付けてきました。蚊柱は雨の兆しといい、「蚊の餠搗き」などの名でも呼ばれています。
「蚊柱」という言葉の古い用例は、藤原定家の私家集『拾遺愚草(しゅういぐそう)』(1216年成立、1233年までに増補・鎌倉時代、藤原定家著)にあります。同書には、「草深きしづのふせやのかばしらにいとふ烟をたてそふる哉」とあり、草深い粗末な家の辺りに立つ蚊柱を詠んでいます。
この和歌は雨の前触れを述べたものではありませんが、鎌倉時代にはすでに、虫が柱のように群れる光景を「かばしら」と呼んでいたことを示します。まず、具体的な自然現象の名があり、その群れ方を天候と結び付ける言い伝えが生まれたと考えられます。
江戸時代には、同じ現象を「蚊が餠搗く」と表す言い方がありました。これは、蚊の群れが空中で上下する様子を、杵(きね)で餠を搗く動きに見立てたもので、雨降りの前兆を表します。
『好色万金丹(こうしょくまんきんたん)』(1694年・江戸時代前期、夜食時分著)には、「栢の鋸屑燻らせば、蚊のもちつくは破れけり」とあります。蚊が群れて飛ぶ様子を「もちつく」と呼んだ古い用例であり、この言い方が当時の人々に通じていたことが分かります。
「蚊が餠搗く」は虫の上下運動に注目した表現ですが、「蚊柱立てば雨」は、群れが柱のように立つ外形に注目しています。描き方は異なっていても、どちらも同じような群飛を雨の兆しと捉える点でつながっています。
また、「蚊がうすづけば雨が降る」という言い方では、群れの上下運動を、臼(うす)の中の穀物を杵で搗く動作になぞらえています。「ウンカのもちつき雨を呼ぶ」も、虫が群れ飛ぶ様子から雨を予想する、同じ系統の言い伝えです。
やがて、柱状の群れを表す「蚊柱」と天候の変化を表す「雨」とが、短い条件の形で結び付き、「蚊柱立てば雨」という言い方が定着しました。自然の小さな変化を見逃さず、これからの天気を読もうとした人々の経験が込められています。
ただし、このことわざは、蚊柱が立てば必ず雨になると断定するものではありません。地域や季節、周囲の水辺などにも左右されるため、雨が近い可能性を知らせる昔ながらの目安として用いる言葉です。
「蚊柱立てば雨」の使い方




「蚊柱立てば雨」の例文
- 夕暮れの庭に虫の群れが現れ、祖母は蚊柱立てば雨と言って洗濯物を取り込んだ。
- 蚊柱立てば雨という言い伝えを思い出し、明日の外出に傘を用意した。
- 川辺に大きな虫の群れが立つのを見て、父は蚊柱立てば雨かもしれないと空を見上げた。
- 農作業をしていた人々は、蚊柱立てば雨を天気の変化を知る目安の一つにした。
- 蚊柱立てば雨というが、念のため天気予報も確かめてから遠足の支度をした。
- 夕方になると蚊柱がいくつも現れ、蚊柱立てば雨の言葉どおり、夜には雨が降り始めた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・平凡社編『改訂新版 世界大百科事典』平凡社、2007年。
・藤原定家『拾遺愚草』1216年成立、1233年までに増補。
・夜食時分『好色万金丹』1694年。























