【ことわざ】
商人の元値
【読み方】
あきんどのもとね
【意味】
商人が言う元値には駆け引きがまじりやすく、そのまま信用しにくいこと。売る側の言葉を、額面どおりに受け取らないほうがよいというたとえ。


【英語】
・Caveat emptor.(買い手は用心せよ。)
・Buyer beware.(買い手は気をつけよ。)
・Don’t take it at face value.(額面どおりに受け取るな。)
【類義語】
・商人の空値(あきんどのそらね)
・商人の空誓文(あきんどのそらせいもん)
【対義語】
・正直の頭に神宿る(しょうじきのこうべにかみやどる)
・正直は一生の宝(しょうじきはいっしょうのたから)
「商人の元値」の語源・由来
このことわざの元になっている「元値」は、品物を仕入れたときのもとの値段、つまり仕入れ値のことである。ことわざ全体では、その元値を商人が口にしても、そのままは信じにくいという意味になる。
言い方の出発点は、商人が品物を売るときに、これでは元値が切れる、あるいは元値ぎりぎりだと言って客にすすめる場面にある。つまり、ことわざの中心には、商売の言葉には値引きの駆け引きが入りやすいという見方がある。
近世の店売りでは、今のようにだれでも同じ値段で買える店ばかりではなかった。客と店とがその場で話し合い、値段を決める売り方が広く行われていた。
そうした商いの中で、あとから値引きすることを見こんで、はじめに高めの値をつける「掛値」があった。これに対し、1683年(天和3年・江戸時代前期)に越後屋が「現金安売掛値なし」を打ち出したことは、掛値のある売り方が当時すでによく知られていたことを物語っている。
この背景を考えると、店の人が「元値だ」「これ以上は下げれば損だ」と言っても、その言葉だけで本当の仕入れ値までは分からない。そこで、「商人の元値」は、売る側の説明をそのまま受け取ってはならないという教えの形にまとまっていったのである。
このことわざは、一冊の有名な古典の一場面から広まったというより、商いの現場で繰り返し聞かれた言い回しから育ったと考えると分かりやすい。客に向かって「元値が切れる」と言う言葉そのものが、すでに商売上の決まり文句になっていたからである。
似た発想のことばに「商人の空値」がある。「空値」は実際より高くつけた値段をいうので、商人が示す価格そのものを信用しにくいという点で、「商人の元値」とたいへん近い。
また、「商人の空誓文」は、商人の言葉や約束には誇張や駆け引きが入りやすいという意味をもつ。値段だけでなく、商売の口上全体に用心すべきだという見方が、同じ流れの中にある。
江戸時代には、京都の商人や遊女が、商売のうえでついた嘘の罪を払う「誓文払」という風習もあった。これは、商いの場では誇張や口先のやり取りが避けにくいものだと、社会の側もある程度わかっていたことを示している。
もっとも、このことわざは、商人はみな嘘つきだと決めつけるための言葉ではない。売る側は有利に話し、買う側はそこを見抜こうとする、そうした交渉の場の知恵を短く言い表したものと見るのが自然である。
そのため、今では店頭の値引き交渉だけでなく、見積もり、特売の宣伝、仕入れ値を強調する売り文句などにも広くたとえて使われる。言葉の表面だけでなく、中身を見て判断しようという姿勢を教えることわざとして、今も生きている。
「商人の元値」の使い方




「商人の元値」の例文
- 店主が仕入れ値すれすれだと強調しても、商人の元値と思ってすぐには決めなかった。
- 古本市で商人の元値をそのまま信じず、ほかの店の相場も確かめてから買った。
- 父は、引っ越し先の家具店の説明を聞いて、商人の元値ということもあるから見積もりを比べようと言った。
- 学園祭の模擬店で材料費を大げさに語る先輩を見て、友だちは商人の元値みたいなものだと笑った。
- 仕事で業者が原価ぎりぎりだと話したので、上司は商人の元値ではないかと考えて条件を細かく確かめた。
- 通販番組の今だけ原価同然という売り文句に、商人の元値を思い出して冷静に判断した。























