【故事成語】
悪、小なるを以て之を為すこと勿れ
【読み方】
あく、しょうなるをもってこれをなすことなかれ
【意味】
どんなに小さな悪事でも、小さいからといって行ってはならないという戒め。小さな悪を軽く見る心が、やがて大きな過ちにつながることをいう。


【類義語】
・霜を履んで堅氷至る(しもをふんでけんぴょういたる)
【対義語】
・善、小なるを以て之を為さざること勿れ(ぜん、しょうなるをもってこれをなさざることなかれ)
「悪、小なるを以て之を為すこと勿れ」の故事
この故事成語は、中国三国時代の蜀の初代皇帝である劉備(りゅうび)が、子の劉禅(りゅうぜん)に残した戒めに由来します。劉備は161年から223年に生きた人物で、劉禅は223年に蜀の第2代皇帝となりました。
もとになった言葉は、『三国志』(中国・西晋、3世紀、陳寿撰)に伝わります。『三国志』は、魏書30巻、蜀書15巻、呉書20巻、全65巻から成る正史で、現在伝わる本文には、南朝宋の裴松之による注が付いています。
この言葉が出てくるのは、『三国志』巻三十二「蜀書二・先主伝」の終わり近くです。そこでは、劉備が病重くなり、丞相の諸葛亮に後のことを託し、尚書令の李厳を副としたことが述べられています。
続いて、劉備は永安宮で亡くなり、年は六十三であったと記されています。そのあとに、『諸葛亮集』に載る先主の遺詔として、劉禅に向けた言葉が引かれています。
その遺詔の中で、劉備はまず、自分の病が重くなったことを述べ、年も六十を過ぎたので自分の身を嘆くのではなく、子どもたちのことを思うと語ります。さらに、劉禅の成長について聞き、しっかり励むよう促しています。
その流れの中に、「勿以惡小而為之,勿以善小而不為」という一節が出てきます。前半が「悪、小なるを以て之を為すこと勿れ」にあたり、小さな悪だからという理由で、それを行ってはならないという意味です。
ここでの「小悪」は、小さな悪事、少しの悪事を指します。「勿」は「なかれ」と読み、してはいけない、という禁止を表す助字です。
この句のすぐ後には、「善、小なるを以て之を為さざること勿れ」にあたる言葉が続きます。つまり、悪については小さくても行わず、善については小さくても行うという、二つで一組の教えになっています。
さらにその後には、「惟賢惟徳,能服於人」という言葉も続きます。これは、人を本当に従わせるものは、ただの力ではなく、賢さと徳であるという意味につながります。
このため、「悪、小なるを以て之を為すこと勿れ」は、ただ小さな失敗を恐れよという意味ではありません。小さな悪を「このくらいならよい」と許してしまう心を戒め、日々の行いを正すことの大切さを説く言葉です。
現在もこの故事成語は、子どもへの戒めだけでなく、仕事、学習、友人関係、社会生活など、広い場面で使われます。小さな不正やごまかしを見逃さない態度が、人としての信頼を守るという教えとして受け止められています。
「悪、小なるを以て之を為すこと勿れ」の使い方




「悪、小なるを以て之を為すこと勿れ」の例文
- 悪、小なるを以て之を為すこと勿れというように、答案を一問だけ写す行為も不正には変わらない。
- 友人の持ち物を少しだけ借りたつもりでも、無断で持ち出すなら、悪、小なるを以て之を為すこと勿れに反する。
- 店の売り物を軽い気持ちで傷つける行為は、悪、小なるを以て之を為すこと勿れとして厳しく戒めるべきだ。
- 係の仕事をさぼっても目立たないと思う心に、悪、小なるを以て之を為すこと勿れの教えを思い出した。
- 書類の数字を少しだけ都合よく直すことも、悪、小なるを以て之を為すこと勿れという戒めに照らせば許されない。
- 悪、小なるを以て之を為すこと勿れを守る人は、小さな約束や決まりも軽く扱わない。
主な参考文献
・陳寿撰、裴松之注『三国志』西晋成立、南朝宋注。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・小川環樹・西田太一郎・赤塚忠・阿辻哲次・釜谷武志・木津祐子編『角川新字源 改訂新版』KADOKAWA、2017年。























