【慣用句】
鋳掛け屋の天秤棒
【読み方】
いかけやのてんびんぼう
【意味】
一方を立てれば一方が立たず、両方のつり合いを取るのがむずかしいことのたとえ。片方が上がれば、もう片方が下がるような関係をいう。


【英語】
・a trade-off(片方を取れば片方を失う関係)
・you can’t have it both ways(都合よく両方は得られない)
・robbing Peter to pay Paul(一方を立てるために他方を削ること)
【類義語】
・あちらを立てればこちらが立たぬ(あちらをたてればこちらがたたぬ)
・二兎を追う者は一兎をも得ず(にとをおうものはいっとをもえず)
・板挟み(いたばさみ)
【対義語】
・一挙両得(いっきょりょうとく)
・一石二鳥(いっせきにちょう)
・両全の美(りょうぜんのび)
「鋳掛け屋の天秤棒」の語源・由来
「鋳掛け屋」は、なべや釜などの穴やひびを直して歩いた職人です。町や村を回る仕事だったため、道具を持って歩きやすいよう、肩に天秤棒をかついでいたと考えられてきました。
天秤棒は、棒の両端に荷を下げて運ぶ道具です。左右に荷が分かれているので、片方が重くなればもう片方は軽く感じられ、片方を持ち上げればもう片方は下がります。
この仕組みそのものが、この慣用句の土台になっています。二つを同時に同じようによくしようとしても、片方に力を入れると、もう片方に影響が出やすいというわけです。
鋳掛け屋の天秤棒が持ち出されたのは、ただ荷物を運ぶ姿がおもしろいからではありません。左右がつながっていて、一方だけを思いどおりに動かせないところが、人の暮らしや仕事によく似ていたからです。
たとえば、時間を勉強に回せば遊ぶ時間は減ります。家の仕事に手をかければ、自分の休む時間は少なくなります。こうした関係は、まさに天秤棒の両端のようです。
この慣用句には、二つのものが単に並んでいるというより、片方の動きがもう片方にそのまま響くという感じがあります。そこが、ただ「忙しい」と言うだけでは足りないところです。
また、真ん中で天秤棒をかつぐ人は、左右の荷をどちらも無視できません。そのため、この慣用句には、二つの要求のあいだで気を配りながら保たなければならない、という苦労の気配もあります。
鋳掛け屋という仕事は、昔の暮らしの中ではよく知られたものでした。今は町で見かけることはほとんどありませんが、当時の人にとっては、天秤棒の動きがすぐ思い浮かぶ身近なたとえだったのです。
この言い方については、ある一つの古い作品だけを出発点として決めるより、昔からの暮らしの中で育った言い回しとして考えるほうが自然です。職人の姿と道具の働きが、そのまま意味につながっているためです。
そのため、現在でも、学校、家庭、商売、仕事など、二つの大事なもののあいだで調整が必要な場面に無理なく使えます。片方をよくすると、もう片方がそのままよくなる場合ではなく、片方に寄せるほどもう片方が苦しくなる場面に合います。
つまり、「鋳掛け屋の天秤棒」は、二つのものを同時に思いどおりには運びにくいことを、昔の職人の道具にたとえた慣用句です。片方を上げれば片方が下がる、その厄介さを、短い言い方の中にはっきり収めた表現だといえます。
「鋳掛け屋の天秤棒」の使い方




「鋳掛け屋の天秤棒」の例文
・部活動の練習時間を増やすと宿題の時間が減る日は、鋳掛け屋の天秤棒という気持ちになる。
・家計を食費に厚く回せば交際費が苦しくなるのは、鋳掛け屋の天秤棒のようなものだ。
・友だち二人の言い分を同時に立てようとして、鋳掛け屋の天秤棒のように動きが取れなくなった。
・行事の予算を宣伝に回せば道具が足りなくなるのでは、鋳掛け屋の天秤棒である。
・会議の時間を短くすれば説明が足りず、説明を増やせば会議が長引くのは、鋳掛け屋の天秤棒といえる。
・子どもの世話と自分の勉強時間のやりくりに悩む夜は、鋳掛け屋の天秤棒という言葉がぴったりくる。























