【ことわざ】
犬の川端歩き
【読み方】
いぬのかわばたあるき
【意味】
食べ物や金銭など、何かを得たい気持ちはありながら、結局何も得られずに歩き回ること。また、いくら奔走してもかいがないこと。


【英語】
・window-shopping(買うつもりがなく店先や商品を見ること)
・a wild-goose chase(むだに終わる捜索・追い回し)
【類義語】
・骨折り損のくたびれ儲け(ほねおりぞんのくたびれもうけ)
「犬の川端歩き」の語源・由来
「犬の川端歩き」は、川端を歩く犬の姿から生まれたたとえです。川端には食べ物があまり落ちておらず、犬がえさをあさりながら歩いても何も得られない、という具体的な場面がもとになっています。そこから、何かにありつこうとしてうろついても、結局は何も得られないこと、また、外出の途中で何か食べたいと思いながら、食べずにすませることを表すようになりました。
この言い方は、江戸時代中期の洒落本(しゃれぼん)『寸南破良意(すなはらい)』(1775年・安永4年刊、南鐐堂一片作)に、古い形で出てきます。この作品は、江戸の岡場所に取材し、さまざまな遊客の姿を会話で描いたもので、「犬の川ばたをあるくやうだ、とろうかをあるきながら」という一節があります。
この古い用例では、現在の「犬の川端歩き」という名詞形そのものよりも、「犬の川ばたをあるくやうだ」という比喩文に近い形で使われています。つまり、はじめから硬い教訓として述べる言葉だったというよりも、町の会話の中で、何も得られずに歩く様子を犬の姿に重ねる言い方として働いていたと考えられます。
その意味は、のちに二つの方向で受け取られるようになりました。一つは、食べたい、何かにありつきたいという気持ちはあるのに、結局は何も口にできず、素通りするという意味です。もう一つは、えさが流れ去ったあとの川端を犬がうろついてもかいがないように、いくら奔走しても結果が出ないという意味です。
さらに、略した形の「犬川(いぬかわ)」も使われました。『浮雲』(1887〜1889年、二葉亭四迷著)には、「犬川(イヌカハ)ぢゃア」という用例があり、明治時代には、長い形を知る人々の間で、短い形でも意味が通じるほど、このたとえが定着していたことが分かります。
このように、「犬の川端歩き」は、中国古典の故事による言葉ではなく、身近な犬の行動をもとにした日本語のたとえです。川端を歩けば何かにありつけるかもしれない、しかし実際には何も得られない、という落差が、現在の「歩き回っても収穫がない」「買いたくても買えず、店先を歩くだけ」という意味につながっています。
「犬の川端歩き」の使い方




「犬の川端歩き」の例文
- 昼休みに購買へ行ったが財布を忘れており、犬の川端歩きになった。
- 町中の店をのぞいたものの一円も持っていなかったので、犬の川端歩きで終わった。
- 資料を探して図書館を三つ回ったが目当ての本はなく、犬の川端歩きだった。
- 旅行先で名物料理の店を探したが、どこも閉まっていて犬の川端歩きになった。
- 展示即売会に行った兄は、欲しい物を見つけても予算が足りず、犬の川端歩きで帰った。
- 取引先を何軒も訪ねたが成果はなく、その日の営業は犬の川端歩きに終わった。
主な参考文献
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・Cambridge University Press『Cambridge Advanced Learner’s Dictionary & Thesaurus』Cambridge University Press。
・Random House『Random House Unabridged Dictionary』Random House、2023年。
・南鐐堂一片『寸南破良意』1775年。
・二葉亭四迷『浮雲』1887〜1889年。























