【ことわざ】
入り船あれば出船あり
【読み方】
いりふねあればでふねあり
【意味】
港に入る船があれば出ていく船もあるように、一方によいことがあれば、他方には困ることもあり、世の中はさまざまであるということ。


【英語】
・People come and go(人は来たり去ったりする)
・Things come and go(物事は現れては去っていく)
【類義語】
・一去一来(いっきょいちらい)
・片山曇れば片山照る(かたやまくもればかたやまてる)
・出船によい風は入り船に悪い(でふねによいかぜはいりふねにわるい)
【対義語】
・両方よし(りょうほうよし)
「入り船あれば出船あり」の語源・由来
「入り船あれば出船あり」は、港に出入りする船の姿をもとにしたことわざです。「入船」は船が港に入ってくること、またその船を指し、「出船」は船が港を出ること、また港を出ていく船を指します。
港では、ある船が荷物や人を乗せて入ってくる一方で、別の船が港を離れていきます。この当たり前の光景から、世の中には、来るものと去るもの、喜ばしいことと困ることが同時にあるという見方が生まれています。
このことわざの「入り船」は、よい知らせや利益のある出来事に重ねられます。反対に「出船」は、失うこと、別れること、困ることに重ねられ、二つを並べることで、物事が一方だけには進まないことを表しています。
意味の中心は、単に「船が出たり入ったりする」という港の描写ではありません。一方によいことがあれば、他方には困ることもあるという、人の立場によって見え方が変わる世の中のあり方を述べています。
また、「一定の状態が続くものではない」という意味も、このことわざに含まれます。港に船がとどまり続けないように、生活や仕事、人との関係も、入れ替わりながら変化していくものとしてとらえています。
「入船」という言葉そのものは、古くから船が港に入ることを表してきました。古い用例として、『夫木和歌抄』(1310年ごろ・鎌倉時代後期)には、「わたのいり舟」という形があり、海や船の動きを表す言葉として使われています。
「出船」も、港を出る船を表す言葉として古くから用いられてきました。『日葡辞書』(1603〜1604年・江戸時代初期)には、船が港を出ることを表す語として出ており、のちの文学にも、出ていく船を惜しむ心情を表す用例が伝わっています。
このように、「入船」と「出船」は、もとは実際の船の動きを表す言葉です。それが並べられることで、港の具体的な情景から、世の中の移り変わりや、人によって喜びと困りごとが分かれる様子を表すことわざになりました。
同じ発想をよりはっきり述べた言い方に、「出船によい風は入り船に悪い」があります。出港する船にとって追い風になる風も、入港する船にとっては向かい風になるため、一方に都合のよいことが、他方にとっては不都合になるという意味です。
「入り船あれば出船あり」は、そのような利害の違いだけでなく、世の中にはさまざまな出来事があり、ものごとは一つの姿にとどまらないという広い意味をもちます。うれしいことだけが続くわけでも、困ったことだけが続くわけでもないという、落ち着いた受け止め方を教えることわざです。
現在では、出会いと別れ、利益と損失、成功と失敗、喜ぶ人と困る人が同時にいる場面に用いられます。世の中の変化を一方だけから決めつけず、立場によって見え方が違うことを考えるときに役立つ言葉です。
「入り船あれば出船あり」の使い方




「入り船あれば出船あり」の例文
- 新しい店が駅前に開いた一方で、昔からの店が閉まることになり、入り船あれば出船ありを感じた。
- 転校生が来てクラスが明るくなったが、仲のよい友人が引っ越し、入り船あれば出船ありと思った。
- 会社の新しい企画で利益を得た部署がある反面、仕事が増えて困る部署もあり、入り船あれば出船ありである。
- 大会に勝って喜ぶチームがあれば、悔し涙を流すチームもあり、入り船あれば出船ありという言葉が当てはまる。
- 新しい道路ができて便利になったが、静かな町並みが変わってしまい、入り船あれば出船ありの面がある。
- 兄が進学で家を出るのはさびしいが、新しい生活の始まりでもあり、入り船あれば出船ありと受け止めた。
主な参考文献
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・現代言語研究会著『日本語を使いさばく 故事ことわざの辞典』あすとろ出版、2007年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。























