【ことわざ】
遠慮は無沙汰
【読み方】
えんりょはぶさた
【意味】
遠慮しすぎると、訪問や連絡をしないのと同じになり、かえって礼を失うということ。


【英語】
・Too much courtesy is discourtesy(礼儀や遠慮も度が過ぎれば、かえって非礼になる)
【類義語】
・遠慮ひだるし伊達寒し(えんりょひだるしだてさむし)
・過ぎたるは猶及ばざるが如し(すぎたるはなおおよばざるがごとし)
【対義語】
・遠慮会釈もない(えんりょえしゃくもない)
「遠慮は無沙汰」の語源・由来
「遠慮は無沙汰」は、遠慮を重ねすぎると、結局は何のあいさつもしないのと同じになり、礼を欠くという考えから生まれたことわざです。相手を思いやるための控えめな態度が、行きすぎるとかえって失礼になる、という人づきあいの加減を教えています。
このことわざの「遠慮」は、現代でよく使う「言葉や行動を慎み控えること」の意味です。「遠慮」には、もとは遠い将来まで考えをめぐらす意味もありますが、このことわざでは、人に対して出すぎないように控える意味が中心です。
「無沙汰」は、長いあいだ訪問や音信をしないことを表します。また、すべきことをおろそかにすること、礼儀に反する不義理を表す意味もあります。
このため、「遠慮」と「無沙汰」が結びつくと、ただ控えめであるだけではすみません。訪ねるべき時に訪ねず、便りを出すべき時に出さないなら、相手には「気をつかわれた」のではなく「放っておかれた」と受け取られることがあります。
「無沙汰」には古くから幅広い意味があり、処置や指図をしないこと、注意を払わないこと、すべきことを怠ることなどを表しました。訪問や音信をしない意味では、『平治物語』(1220年ごろ成立か・鎌倉時代前期の軍記物語)にも「今も無沙汰なり」という用例が伝わります。
「遠慮」のほうも、古くは遠い将来まで見通して深く考える意味をもちました。のちに、人に対して言葉や行動を控えめにする意味が広まり、室町末から近世初期ごろの狂言にも「遠慮なしにいふて見よ」という用例が出てきます。
「遠慮は無沙汰」の古い用例としては、滑稽本『花暦八笑人(はなごよみはっしょうじん)』(1820〜1849年・江戸時代後期、滝亭鯉丈ほか作)に「何の遠慮は無沙汰だ、有体に言ひねヱ」という形が出てきます。ここでは、遠慮して言わないことを戒め、ありのままに言うよう促す場面で用いられています。
『花暦八笑人』は、五編十五冊から成る滑稽本です。江戸の遊び好きの仲間八人が、四季の遊びの中で茶番を試み、その失敗を通して笑いを描く作品です。
この作品に出てくる「有体に言ひねヱ」の「有体」は、ありのまま、うそ偽りのないことを表します。つまり、この場面では、遠慮して黙ったり飾ったりするよりも、きちんと口に出して伝えるほうがよいという感覚が、ことわざの形で表されています。
このことわざは、遠慮そのものを否定する言葉ではありません。相手を思いやる気持ちは大切ですが、遠慮が過ぎて訪問も便りもしないなら、その気持ちは相手に届かず、無沙汰と変わらなくなるという教えです。
近い考えを表す「遠慮ひだるし伊達寒し」は、遠慮しすぎるとごちそうを前にしてもひもじい思いをする、というたとえです。どちらも、控えめな態度や人目を気にする態度が、度を越すと自分や相手にとってよくない結果を生むことを示しています。
現在では、訪問、手紙、電話、会合への参加など、人との関係を保つ場面で使いやすいことわざです。相手を思うなら、ただ控えるだけでなく、必要なあいさつや連絡をきちんとすることが礼にかなう、という意味で受け取ると分かりやすい言葉です。
「遠慮は無沙汰」の使い方




「遠慮は無沙汰」の例文
- 先生に忙しいだろうと遠慮して礼状を出さずにいたが、遠慮は無沙汰になってしまった。
- 久しぶりの友人に連絡するのをためらっていたが、遠慮は無沙汰と思い、思い切って電話した。
- 世話になった親戚を訪ねないままでいるのは、遠慮は無沙汰というものだ。
- 相手に迷惑をかけたくない気持ちは分かるが、遠慮は無沙汰だから、ひと言お礼を伝えたほうがよい。
- 卒業後に恩師へ近況を知らせないままだったので、遠慮は無沙汰にならぬよう手紙を書いた。
- 会合への参加を控え続けると疎遠になるため、遠慮は無沙汰と考えて顔を出すことにした。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・滝亭鯉丈ほか『花暦八笑人』1820〜1849年。
・David Crystal, As They Say in Zanzibar, Collins, 2006.























