【ことわざ】
親方思いの主倒し
【読み方】
おやかたおもいのしゅたおし
【意味】
主人のためを思ってしたことが、かえって主人に不利益を与えること。弟子や使用人などの軽率な行動を戒める言葉。


【英語】
・do more harm than good(助けになるどころか、かえって害を与える)
【類義語】
・贔屓の引き倒し(ひいきのひきたおし)
「親方思いの主倒し」の語源・由来
このことわざは、「親方思い」と「主倒し」という、前半と後半で正反対の意味をもつ言葉を組み合わせた表現です。「親方」は、職人や奉公人などが仕える主人やかしらを指し、「主倒し」は、主人に迷惑や損害をかけること、またはそのような人を指します。
したがって、言葉どおりには、「親方を大切に思う者が、その親方を倒してしまう」という皮肉な組み立てです。相手を思う気持ちと、相手に害を与える結果とを鋭く対照させることで、善意だけでは行動の正しさを保証できないことを表しています。
江戸時代の「親方」は、現在のように職人の師匠だけを指すものではなく、職人・人夫・奉公人などが仕える主人にも用いられました。『日葡辞書』(1603〜1604年)にも、仕えるべき主人やかしらを表す言葉として「親方」が記されており、主人と弟子・使用人との関係を背景にもつ表現です。
ことわざ全体に先立ち、「主倒し」という言葉の古い用例があります。『好色一代女(こうしょくいちだいおんな)』(1686年・江戸時代前期、井原西鶴著)には、「不断隙ひまで暮らすは主倒し」とあり、いつも暇に過ごして主人の役に立たず、かえって主人に損を与える者を表しています。
一方、『世間胸算用(せけんむねさんよう)』(1692年・江戸時代前期、井原西鶴著)には、「召つかひの若ひ者、よくよく親かた大事に思ひ」という言い回しが出てきます。ことわざそのものではありませんが、使用人が主人を大切にすることを「親方を大事に思う」と表した、当時の言葉の背景が分かります。
現在のことわざに近い、まとまった形の古い用例は、滑稽本『人間万事虚誕計(にんげんばんじうそばっかり)後編』(1833年・江戸時代後期、滝亭鯉丈著)の「叙」にあります。この作品は、前編を式亭三馬、後編を滝亭鯉丈が書いた二編二冊の作品で、後編は天保4年に刊行されました。
そこには、「又親方思ひの主(シウ)だをしといふやつらが」とあります。引用の続きでは、親方のためと言いながら、出来事を自分たちの「喰物」にしようとする者が批判されており、「親方思い」という言い分と、「主倒し」という悪い結果との食い違いが示されています。
古い用例では「主(シウ)だをし」と読みが添えられていますが、現在のことわざでは「しゅたおし」と読みます。また、「といふやつら」という書き方からは、作者が新しく作った表現と断定するよりも、当時すでに通じていた言い回しを作品に取り入れた可能性が考えられます。
このことわざは、親方のためという口実で自分の利益を図る者だけを指すものではありません。本心から相手を思っていても、独断や早合点によって相手に迷惑や損害を与えれば、「親方思いの主倒し」に当たります。
相手を大切に思うなら、気持ちだけで突き進まず、その行動が本当に相手の助けになるのかを考えなければなりません。「親方思いの主倒し」は、善意がかえって悪い結果を招かないよう、慎重に行動することの大切さを伝えることわざです。
「親方思いの主倒し」の使い方




「親方思いの主倒し」の例文
- 主人を喜ばせようと高価な材料を大量に仕入れた弟子の行為は、親方思いの主倒しとなった。
- 店長を助けるつもりで注文を勝手に増やし、在庫を余らせたのは親方思いの主倒しだ。
- 社長を守ろうとして部下が事実を隠したため、問題が深刻化し、親方思いの主倒しになった。
- 監督の負担を減らそうと選手が無断で日程を変更したが、親方思いの主倒しに終わった。
- 町内会長のために役員が独断で寄付を集め、かえって会長の信用を傷つけたのは親方思いの主倒しである。
- 師匠の名を広めようと弟子が大げさな宣伝をした結果、親方思いの主倒しとなった。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・小学館大辞泉編集部編、松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・Cambridge University Press『Cambridge Advanced Learner’s Dictionary & Thesaurus』。
・『日葡辞書』1603〜1604年。
・井原西鶴『好色一代女』1686年。
・井原西鶴『世間胸算用』1692年。
・滝亭鯉丈『人間万事虚誕計 後編』1833年。























