【ことわざ】
親思いの主倒し
【読み方】
おやおもいのしゅだおし
【意味】
使用人などが、主人の家の物を盗んで自分の親に与え、主人に損害をもたらすこと。


【英語】
・rob Peter to pay Paul(一方から奪って、もう一方のために使う)
【類義語】
・恩を仇で返す(おんをあだでかえす)
「親思いの主倒し」の語源・由来
「親思いの主倒し」は、「親思い」と「主倒し」という、意味の向きが反対の二つの言葉を組み合わせたことわざです。「親思い」は、親を大切に思い、親への思いやりを深くもつことを表します。一方、「主倒し」は、主人に迷惑や損害をかけること、または、そのような行いをする者を指します。
したがって、言葉どおりにほどくと、「親には尽くすが、そのために主人を損なう者」という意味になります。「親思い」は本来ほめるべき性質ですが、「主倒し」と結び付くことで、親孝行の名のもとに主人を裏切るという矛盾を、鋭く表しています。
「主倒し」という言葉は、井原西鶴の浮世草子(うきよぞうし)『好色一代女(こうしょくいちだいおんな)』(1686年・江戸時代前期、井原西鶴著)に、「不断隙で暮らすは―」という形で出てきます。ここでも、「主倒し」は主人に損害や迷惑をかける者を表しており、江戸時代前期には、すでに使われていた言い方です。
この「倒し」は、主人を実際に押し倒すという意味ではありません。主人の財産を減らしたり、暮らしや商売を立ち行かなくさせたりすることを、「倒す」と強く言い表したものです。「主倒し」は、単独では「しゅうだおし」とも読みますが、「親思いの主倒し」では「しゅだおし」と読みます。
このことわざが示す具体的な行いは、使用人が主人の家の物をくすね、自分の親へ貢ぐことです。親を楽にさせたいという動機だけを見れば親孝行のようですが、そのために他人の物を盗めば、主人の信頼を裏切り、損害を与えることになります。善い目的を掲げていても、不正な手段まで正しいものになるわけではないという戒めが込められています。
よく似た表現に「親方思いの主倒し」がありますが、意味は同じではありません。「親思いの主倒し」の「親」は自分の父母を指し、親のために主人を害することを表します。これに対して、「親方思いの主倒し」は、親方や主人のためを思ってした行為が、かえって主人に不利益をもたらすことを意味します。
「親方思いの主倒し」は、滑稽本(こっけいぼん)『人間万事虚誕計』後編(1833年・江戸時代後期、滝亭鯉丈作)の序に、「親方思ひの主だをし」という形で出てきます。「親」と「親方」は一字違いですが、誰のために行動するのかが異なるため、二つのことわざを取り違えないことが大切です。
「親思いの主倒し」は、単に好意が裏目に出た場合には用いません。親を助けるために、仕えている主人の物や利益を犠牲にするという、親への情と主人への義務とが正面からぶつかる場面を表すことわざです。親孝行も、他人を傷つけない正しい方法で行わなければならないという教えを伝えています。
「親思いの主倒し」の使い方




「親思いの主倒し」の例文
- 奉公人が主人の米を盗んで故郷の父母へ送るとは、親思いの主倒しである。
- 店の売上金を勝手に持ち出して親の借金を払った若者は、親思いの主倒しとなった。
- 親思いの主倒しでは親孝行とはいえず、主人から受けた信頼を裏切るだけである。
- 物語の召使いは、病気の母へ薬を届けるため主人の品を盗み、親思いの主倒しを犯した。
- 主人の倉から布をくすねて親に贈る行為を、祖父は親思いの主倒しと戒めた。
- 親思いの主倒しにならないよう、親を助けるときにも正しい手段を選ばなければならない。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・井原西鶴『好色一代女』1686年。
・滝亭鯉丈『人間万事虚誕計 後編』1833年。























