【ことわざ】
親孝行と火の用心は灰にならぬ前
【読み方】
おやこうこうとひのようじんははいにならぬまえ
【意味】
親孝行は親が生きているうちに、火の用心は火事が起こる前にすべきであり、どちらも手遅れになってからでは役に立たないということ。


【英語】
・A stitch in time saves nine(問題が大きくなる前に、早く手を打つのがよい)
【類義語】
・孝行のしたい時分に親は無し(こうこうのしたいじぶんにおやはなし)
・石に布団は着せられず(いしにふとんはきせられず)
・火事あとの火の用心(かじあとのひのようじん)
「親孝行と火の用心は灰にならぬ前」の語源・由来
「親孝行と火の用心は灰にならぬ前」は、親を大切にすることと、火事を防ぐことという二つの教えを、「灰」という共通の言葉で結び付けたことわざです。親が亡くなって火葬されたあとの灰と、家や家財が火事で焼けたあとの灰とを重ね、何もかも終わってから行動しても遅いことを、印象深く表しています。
前半の「親孝行」は、親を大切にし、心を尽くして仕えることです。「孝行」という言葉の古い用例は、『続日本紀(しょくにほんぎ)』(797年成立、奈良時代から平安時代初期)に収められた715年の記事にもあります。親を敬い、その恩に報いることは、古くから人が守るべき大切な行いと考えられてきました。
ただし、親のありがたさは、親と離れたり、自分が年を重ねたりしてから、初めて深く分かることもあります。そのため、親が亡くなったあとに、もっと話をすればよかった、助けてあげればよかったと悔やむ人の心を表す言葉が、数多く生まれました。
その代表が「孝行のしたい時分に親は無し」です。この言い方は川柳(せんりゅう)から生まれ、多くの人の共感を集め、幕末にはことわざとしてほぼ定着しました。「石に布団は着せられず」も、墓石となった親に布団を掛けても、もはや親孝行にはならないという、同じ教えを表します。
後半の「火の用心」は、火元に注意し、火災を起こさないよう気を付けることです。古い用例は、俳諧(はいかい)『望一後千句』(1652年・江戸時代前期)にあり、「御用心火の用心」と、夕暮れに注意を呼び掛ける声が詠まれています。
「火の用心」という言葉が広まる以前にも、夜回りの者が「火危うし」と声を掛け、火事を警戒する習慣がありました。『源氏物語』(11世紀初めごろ成立、平安時代中期、紫式部著)の「浮舟」にも、その声が出てきます。火を出してから消すのではなく、日ごろから火元を確かめるという考えは、古くから人々の暮らしに根付いていました。
親孝行も火の用心も、行うべき時を逃すと、取り返しがつきません。親が亡くなってからでは、感謝の言葉を直接届けることはできず、火事で焼けてしまってからでは、失われた家や品物を元どおりにすることはできません。この二つの共通点から、「灰にならぬ前」という結びが生まれたと考えられます。
このことわざの「前」には、単に時間的に早くというだけでなく、まだ間に合ううちに、という意味が込められています。感謝や備えを思い付くだけで終わらせず、相手が元気なうち、災いが起こらないうちに、実際の行動へ移すことを求めています。
このように、「親孝行と火の用心は灰にならぬ前」は、親への感謝と火災への備えという異なる事柄を、「後では遅い」という一点で結び付けたことわざです。大切なことをいつかに先延ばしせず、できる時に行うべきだと教えています。
「親孝行と火の用心は灰にならぬ前」の使い方




「親孝行と火の用心は灰にならぬ前」の例文
- 親孝行と火の用心は灰にならぬ前というから、母が元気なうちに感謝の気持ちを伝えたい。
- 父は親孝行と火の用心は灰にならぬ前と言い、毎晩寝る前に台所の火元を確かめた。
- 親孝行と火の用心は灰にならぬ前を心に留め、兄は実家を訪ねるたびに古い電気配線を点検した。
- 祖母の誕生日を先延ばしにせず祝ったのは、親孝行と火の用心は灰にならぬ前と考えたからだ。
- 町内会では、親孝行と火の用心は灰にならぬ前を合言葉に、一人暮らしの高齢者への声掛けと防火活動を行った。
- 親孝行と火の用心は灰にならぬ前なのだから、感謝も災害への備えも思い立ったときに始めるべきだ。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・Cambridge University Press『Cambridge Advanced Learner’s Dictionary & Thesaurus』。
・紫式部『源氏物語』11世紀初めごろ成立。
・『望一後千句』1652年。























