【ことわざ】
親の奥歯で噛む子は他人が前歯で噛む
【読み方】
おやのおくばでかむこはたにんがまえばでかむ
【意味】
親が子をかわいがるあまり、必要なときにもきちんと叱らないと、その子は外で他人から厳しく叱られることになるということ。


【英語】
・Spare the rod and spoil the child(子どもの誤りを正さなければ、正しいことを学べない)
【類義語】
・可愛い子には旅をさせよ(かわいいこにはたびをさせよ)
・打たれても親の杖(うたれてもおやのつえ)
「親の奥歯で噛む子は他人が前歯で噛む」の語源・由来
「親の奥歯で噛む子は他人が前歯で噛む」は、親が子を甘やかして必要な注意をしないと、やがてその子が外で他人から厳しく叱られるという教えを、歯で噛む動作にたとえたことわざです。ここでいう「噛む」は、実際に人を噛むことではなく、子の誤りを叱ったり、行いを正したりすることを表しています。
このことわざの中では、「奥歯で噛む」は親の手加減された叱り方を、「前歯で噛む」は他人の容赦ない叱り方を表します。親はわが子をかわいく思うため、叱るべき場面でも強く言えず、つい許してしまうことがあります。それに対して、外の人は親ほど事情をくみ取ってはくれないため、同じ振る舞いをいっそう厳しくとがめるという対照です。
表現の形にも工夫があります。「親」と「他人」、「奥歯」と「前歯」を向かい合わせ、両方に「噛む」を置くことで、身近な人の甘さと世間の厳しさを鮮やかに比べています。本来なら、わが子を守ろうとする親のほうが優しいはずですが、その優しさが行き過ぎれば、子は外でより大きな苦労を受けることになります。この意外な結果を、一度聞いたら忘れにくい言い回しにしたものです。
このことわざが戒めているのは、子どもをかわいがることそのものではありません。悪い行いを見過ごし、守ることと甘やかすことを取り違える点です。家庭で礼儀や約束を教えられなかった子は、同じ振る舞いを学校や地域で繰り返し、親よりも厳しい立場の人から強く注意されることがあります。「他人が前歯で噛む」とは、そのように、外の社会から手厳しく正される結果を表しています。
親の愛情には、ただ望みをかなえるだけでなく、必要なときに誤りを正す厳しさも含まれるという考えは、古くからさまざまなことわざに表れてきました。その一つである「打たれても親の杖」は、『小袖曾我(こそでそが)』(1538年ごろ・室町時代後期、作者未詳)に「撃れても親の杖」と出てきます。親が子を叱るのは慈愛から出た行いであるという意味で、愛情と厳しさを結び付けた古い表現です。
また、「可愛い子には旅をさせよ」も、子が本当にかわいいなら、いつまでも手元で甘やかさず、世間に出してさまざまな経験を積ませるべきだと説きます。この言い方は、戦国時代からほぼ同じ形で使われ、「旅」はしだいに、生まれ育った家を離れて他人の中で修業することも表すようになりました。
ただし、これらのことわざは、「親の奥歯で噛む子は他人が前歯で噛む」とまったく同じ内容ではありません。「打たれても親の杖」は、親の厳しさに愛情があることを述べ、「可愛い子には旅をさせよ」は、苦労や経験を積ませる大切さを説きます。それに対して、対象のことわざは、親が必要な注意を怠った場合に、子が外でいっそう厳しく扱われるという結果に重点を置いています。
この言い回しは、現在も、歯にまつわることわざの一つとして収められています。「奥歯」と「前歯」という身近な体の部分を使いながら、子を本当に思うなら、困ることが起きる前に必要なことを教えなければならないと伝えています。親の優しさとは、何でも許すことではなく、子が外の社会で困らないように導くことでもある、という教えです。
「親の奥歯で噛む子は他人が前歯で噛む」の使い方




「親の奥歯で噛む子は他人が前歯で噛む」の例文
- 家庭でわがままを見過ごされていた少年は、地域の行事で厳しく注意され、親の奥歯で噛む子は他人が前歯で噛むのとおりになった。
- 子どもの無作法を何でも許していては、親の奥歯で噛む子は他人が前歯で噛むという結果を招きかねない。
- 親の奥歯で噛む子は他人が前歯で噛むというから、母は息子が約束を破ったときには理由を聞いたうえで注意した。
- 新人の失礼な態度を家族が直さずにきたため、職場で厳しい指摘を受け、親の奥歯で噛む子は他人が前歯で噛むを思わせた。
- 親の奥歯で噛む子は他人が前歯で噛むという教えを胸に、父は娘のためにならない甘やかし方を改めた。
- 祖母は、家の外で恥ずかしい思いをさせないためにも、親の奥歯で噛む子は他人が前歯で噛むことを忘れてはならないと語った。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・Cambridge University Press『Cambridge Advanced Learner’s Dictionary & Thesaurus』。
・秋田労災病院『秋田労災病院通信 No.76』2010年。
・福岡県歯科医師会『歯と口に関する故事・ことわざ』。
・『小袖曾我』室町時代後期。























