【ことわざ】
女の髪の毛には大象もつながる
【読み方】
おんなのかみのけにはたいぞうもつながる
【意味】
女性には、男性の心を強く引きつける力があることのたとえ。


【英語】
・One hair of a woman draws more than a hundred yoke of oxen(女性の髪の毛一本は、百組を超える牛を引くほどの力をもつ)
【類義語】
・女の足駄にて作れる笛には秋の鹿よる(おんなのあしだにてつくれるふえにはあきのしかよる)
「女の髪の毛には大象もつながる」の語源・由来
「大象(たいぞう)」とは、大きな象のことです。このことわざは、細く弱そうな女性の髪の毛と、力の強い巨大な象を対照的に並べ、女性に心を引かれた男性が身動きできなくなる様子を表しています。
もとになったたとえは、中国の東晋時代に訳された仏典『五苦章句経』に出てきます。この書物は、西域出身の僧である竺曇無蘭が、漢文に訳したものとして伝わっています。
『五苦章句経』には、山を動かし、木を抜き、石を砕くほどの力をもつ大きな白象が登場します。ところが、ある人がその脚を髪で縛ると、象は脚を動かせなくなり、その場から進めなくなったと記されています。
続いて、この象の話が何を表しているのかが説かれます。ある人が家族と離れて仏道の修行に入ろうとしたところ、妻や子が泣いて別れを悲しんだため、その人は心を変え、出家する決意を失ってしまいました。その姿を、髪に脚を縛られて動けなくなった象になぞらえています。
この段階では、髪そのものの美しさをたたえた表現ではありません。巨大な象さえ細い髪に止められるという意外な取り合わせによって、家族への愛情や執着が、人の決意をくじくほど強いことを表した仏教的なたとえでした。
日本では、『徒然草(つれづれぐさ)』(1331年頃・鎌倉時代末期、兼好著)の第九段に、このたとえを取り入れた表現が出てきます。『徒然草』は、無常観に基づく人生や世の中への考えを記した随筆です。
第九段では、愛著(あいじゃく)、つまり人や物への強い執着について語られています。目や耳などを通して生じるさまざまな欲望は遠ざけられても、男女の情から生じる迷いだけは、老若や知恵の有無にかかわらず、抑えることが難しいと述べています。
その具体的なたとえとして、「女の髪すぢを縒れる綱には、大象もよく繋がれ」という一節が置かれています。女性の髪をより合わせて作った綱なら、巨大な象までつなぎ止められるという意味です。
『徒然草』では、この一節に続けて、女性が履いた足駄(あしだ)で作った笛には、秋の鹿が必ず寄ってくるというたとえも挙げています。秋の鹿が笛に誘われる姿と、髪の綱につながれる象の姿を並べ、男女の情が人を強く引きつけることを表しています。
仏典では、髪に象がつながれる話は、妻子への愛情によって修行の決意が揺らぐことを表していました。これが『徒然草』では、「女の髪すぢ」をより合わせた綱という形になり、女性の魅力に男性が心を奪われることを表す言い回しへと、意味がしぼられました。
さらに、「女の髪すぢを縒れる綱には、大象もよく繋がれ」という文章は、後に「女の髪の毛には大象もつながる」という簡潔な形になりました。「髪をより合わせて綱にする」という部分を省き、女性の髪と大象を直接結びつけることで、覚えやすいことわざとして定着したのです。
このことわざは、女性そのものを責める言葉というより、女性への思いにとらわれ、判断や決意を失う男性の弱さを誇張して表したものです。もとの『徒然草』も、最後には愛欲による心の迷いを自ら戒め、慎むように述べています。
「女の髪の毛には大象もつながる」の使い方




「女の髪の毛には大象もつながる」の例文
- 美しい姫に心を奪われて戦の備えを怠った武将の姿は、女の髪の毛には大象もつながるのたとえそのものだ。
- 彼は恋人と離れたくないために遠方への栄転を断り、女の髪の毛には大象もつながると言われた。
- 女の髪の毛には大象もつながるというように、勇敢な英雄も恋の悩みには勝てなかった。
- その物語は、女の髪の毛には大象もつながるを題材に、恋に迷う若殿の失敗を描いている。
- 祖父は女の髪の毛には大象もつながるを引き、相手に夢中なときほど冷静な判断が必要だと語った。
- 古典の授業で女の髪の毛には大象もつながるを学び、髪に縛られる象が心の執着を表すことを知った。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・竺曇無蘭訳『五苦章句経』東晋。
・兼好『徒然草』1331年頃。























