【故事成語】
漁夫の利
【読み方】
ぎょふのり
【意味】
二者が争っているすきに、その争いとは直接関係のない第三者が、苦労せず利益を得ることのたとえ。


【英語】
・While two dogs are fighting for a bone, a third runs away with it.(二匹の犬が骨を取り合っている間に、三匹目がそれをさらっていく)
【類義語】
・鷸蚌の争い(いつぼうのあらそい)
「漁夫の利」の故事
「漁夫の利」のもとになった話は、『戦国策(せんごくさく)』(前漢末、紀元前一世紀、劉向編)の「燕策二(えんさくに)」にあります。趙(ちょう)が燕(えん)を攻めようとしたとき、燕のために動いていた遊説家(ゆうぜいか)の蘇代(そだい)は、趙の恵文王(けいぶんおう)に攻撃を思いとどまらせようと、一つのたとえ話を語りました。
蘇代は、趙と燕との境に近い易水(えきすい)を通ったときに目にした出来事として、話を始めます。蚌(ぼう:ハマグリやドブガイのような二枚貝)が殻を開いて日に当たっていると、鷸(いつ:シギ)がその肉をくちばしでついばもうとしました。
すると蚌は、すばやく殻を閉じ、鷸のくちばしを挟みました。鷸は、「今日も明日も雨が降らなければ、おまえは乾いて死んでしまうぞ」と脅しますが、蚌も「今日も明日もくちばしが抜けなければ、おまえのほうが死んでしまうぞ」と言い返しました。
鷸はくちばしを引き抜こうとし、蚌は鷸を放そうとしません。どちらも相手に負けまいと争い続けていると、そこへ漁師が通りかかり、動けなくなっていた鷸と蚌を一度に捕らえてしまいました。
蘇代は、この話を国どうしの関係に重ねました。趙と燕が長く戦い続ければ、両国の人々と軍勢は疲れ果て、そのすきに強国の秦(しん)が、漁師のように利益を得るだろうと説いたのです。恵文王はこのたとえに納得し、燕への攻撃を中止しました。
この故事の大切な点は、漁師が偶然幸運に恵まれたことだけではありません。二者が目の前の争いにとらわれて周囲への注意を失ったために、争いに加わっていなかった第三者へ利益を渡してしまったところに教訓があります。
同じ故事から生まれた「鷸蚌の争い」は、無益な争いを続けた二者が共倒れになる側に重点を置く表現です。これに対して「漁夫の利」は、その争いに乗じて利益を得る第三者の側に重点を置いて使います。
『戦国策』の本文には、鷸と蚌を捕らえる者を表す「漁者」と、秦がその立場になることを表す「漁父」が出てきますが、「漁夫の利」という四字がそのまま書かれているわけではありません。後に「鷸蚌の争いは漁夫の利となる」という形で故事の教訓がまとめられ、その後半が独立して「漁夫の利」と使われるようになりました。原典に近い「漁父」よりも、現在の日本語では「漁夫」の表記が広く定着しています。
日本語の古い実例としては、末広鉄腸の政治小説『花間鶯(かかんおう)』(明治20〜21年)に、「独り漁父の利を収る」とあります。また、三宅雪嶺の『偽悪醜日本人(ぎあくしゅうにほんじん)』(明治24年)には、「鷸蚌の争遂に漁夫の利となる」とあり、故事の前半と後半を結んだ形が使われています。こうした用例を経て、現在では「漁夫の利」だけで、二者の争いに乗じて第三者が利益を得ることを表すようになりました。
「漁夫の利」の使い方




「漁夫の利」の例文
- 二社が価格競争で消耗する間に、新しい会社が市場を広げ、漁夫の利を得た。
- 兄と弟が最後の菓子を取り合っているうちに、妹が持っていき、漁夫の利を占めた。
- 候補者どうしが互いを批判し続けた結果、目立たなかった第三の候補が漁夫の利を得た。
- 二つのチームが首位を争って疲れたすきに、後ろから追い上げたチームが漁夫の利を手にした。
- 部門間の対立が長引き、競合会社に漁夫の利を与える結果となった。
- 友人二人が席を譲らず言い争う間に、別の人が座り、漁夫の利を得た。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・福田襄之介・森熊男著『新釈漢文大系49 戦国策 下』明治書院、1988年。
・劉向編『戦国策』前漢末。
・末広鉄腸『花間鶯』明治20〜21年。
・三宅雪嶺『偽悪醜日本人』明治24年。























