【故事成語】
影の形に随うが如し
【読み方】
かげのかたちにしたがうがごとし
【意味】
影が物の形から離れないように、いつも一緒にいて離れないこと。


【英語】
・follow someone around like a shadow.(影のようにどこまでも付き従う)
【類義語】
・形影相伴う(けいえいあいともなう)
・影身に添う(かげみにそう)
「影の形に随うが如し」の故事
「影の形に随うが如し」の土台には、光を受けた物体に影が生じ、その物体が動けば、影も離れずについていくという身近な現象があります。「形」は影を生じさせる物体を指し、「随う」は後についていくこと、「如し」は「〜のようだ」という意味です。
中国古代の思想書『列子(れっし)』の「説符」篇には、「形枉れば則ち影曲がり、形直ければ則ち影正し」という趣旨の言葉があります。物体が曲がれば影も曲がり、物体がまっすぐなら影もまっすぐになるため、曲がるか正しくなるかは、影ではなく形によって決まるという意味です。
この古い言葉では、形と影の関係を、原因と結果の切り離せない結び付きに重ねています。のちに中国では、「如影随形」という形が、密接な因果関係を表すだけでなく、いつも一緒にいて互いに離れないことも表すようになりました。
この比喩を用いた有名な話は、『旧唐書(くとうじょ)』(五代後晋、945年成立、劉昫ら撰)の「張士衡伝」に出てきます。張士衡は、儒学、とりわけ礼に詳しい学者で、唐の皇太子であった李承乾に学問を教えるため、宮廷へ招かれました。
李承乾は張士衡に、かつての斉王朝がなぜ滅びたのかと尋ねました。張士衡は、君主が乱暴な政治を行い、忠義のある人物を退け、身近な悪人ばかりを信用したため、国を守ろうとする者がいなくなったのだと答えました。
続いて李承乾は、仏に財物を差し出して功徳を積めば、よい報いを受けられるのかと尋ねました。張士衡は、仏に仕えるには、清らかで欲の少ない心と、人を思いやる心が大切であり、欲深く横暴な行いを続けながら財物だけを差し出しても、災いから逃れることはできないと説きました。
その中で、張士衡は「善惡之報、若影隨形」と述べました。善い行いと悪い行いへの報いは、影が形に従うように必ず本人についてくるという意味であり、儒家の教えにも仏教の教えにも通じる道理だと、皇太子を戒めたのです。
『新唐書』(北宋、1060年成立、欧陽修・宋祁ら撰)にも、この話が「善悪必ず報いあり、影の形に赴くが若し」という形で記されています。そこでは、張士衡が過ちの多かった皇太子をこの言葉で戒めたものの、皇太子は教えを受け入れず、のちに廃されたことも述べられています。
日本では、『日本霊異記(にほんりょういき)』(823年ごろ成立・平安時代前期、景戒撰)の序に、「善悪の報は影の形に随ふが如く、苦楽の響は谷の音に応ふるが如し」とあります。善悪の報いが行いに従うことを、形から離れない影と、声に応じて返ってくる谷のこだまとにたとえた表現です。
『日本霊異記』は、『旧唐書』の完成より一世紀以上前に成立しています。そのため、日本の用例を『旧唐書』から直接取り入れたものとはいえず、影と形を因果応報に重ねる比喩が、それ以前から中国や日本の仏教・儒教の教えの中で広く用いられていたことが分かります。
さらに、『応永本論語抄』(1420年・室町時代前期)には、「吉凶の報ずること、影の形に随ひ、響の音に応ずるが如し」とあります。ここでも、行いに応じた吉凶の報いが必ずついてくるという、古くからの意味で使われています。
江戸時代前期になると、『為愚痴物語(いぐちものがたり)』(1662年、曾我休自著)に、「かたちにかげのそふごとくにて」という形が出てきます。世間を離れて暮らしても、欲心を捨てることは難しいという文脈で、影のように離れないものを表しています。
森鷗外の『渋江抽斎(しぶえちゅうさい)』(大正5年)では、親しい二人について「影の形に従う如く」と書き、わずかな間も離れなかった様子を表しています。この段階では、善悪の報いに限らず、人と人とがいつも行動を共にするという意味で使われています。
このように、もとは行いと報いとの必然的な関係を表した影と形の比喩が、しだいに「いつも付き従う」「決して離れない」という広い意味でも用いられるようになりました。「影の形に添うよう」「形に影の添う如し」などの形もあり、現在の「影の形に随うが如し」へとつながっています。
「影の形に随うが如し」の使い方




「影の形に随うが如し」の例文
- 幼い弟と兄は影の形に随うが如しで、庭へ出るときも買い物へ行くときも一緒だった。
- 二人の親友は、まさに影の形に随うが如しという間柄で、休日の行事にも連れ立って参加した。
- その老犬と飼い主は影の形に随うが如しで、家の中でも庭でも片時も離れなかった。
- 新人秘書は、影の形に随うが如しというほど、会議から出張先まで社長に付き添った。
- 警護員は影の形に随うが如しの様子で、式典の間じゅう来賓のそばを離れなかった。
- 長年組んできた二人の職人は影の形に随うが如しで、工房でも建築現場でも息を合わせて働いた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・Cambridge University Press『Cambridge Dictionary.』
・『列子』。
・劉昫ら撰『旧唐書』945年成立。
・欧陽修・宋祁ら撰『新唐書』1060年成立。
・景戒撰『日本霊異記』823年ごろ成立。
・曾我休自『為愚痴物語』1662年。
・森鷗外『渋江抽斎』1916年。























