【故事成語】
糧を敵に借る
【読み方】
かてをてきにかる
【意味】
敵の食料を奪って自分たちの食料として使うこと。転じて、反対者や競争相手をうまく利用することのたとえ。


【英語】
・use something to your advantage.(物事を自分に有利になるように利用する)
「糧を敵に借る」の故事
「糧を敵に借る」は、中国古代の兵法書『孫子』の考え方に通じる故事成語です。「糧」は食料・兵糧を指し、「借る」はここでは相手のものを利用する意味合いで用いられます。
『孫子』は、春秋時代の呉の将軍孫武、または孫武の著作と伝えられる十三編の兵法書を指します。戦略や戦術を総合的に論じた書物で、「計」「作戦」「謀攻」など十三編から成ります。
この故事成語のもとになる考えは、『孫子』「作戦」篇に出てきます。「作戦」篇は、大軍を動かすときに費用や食料がどれほどかかるか、戦争が長引くと国や民がどれほど疲れるかを述べる篇です。
そこには、「善く兵を用うる者は、役は再びは籍せず、糧は三たびは載せず」とあります。戦の上手な者は、民に何度も兵役を課したり、食料を何度も遠くへ運ばせたりしない、という意味です。
続いて、「用を国に取り、糧を敵に因る。故に軍食足るべきなり」と述べます。軍需品は自国でまかない、食料は敵地のものに依存するので、軍の食料が足りるという考えです。
原文の「因糧於敵」は、「糧を敵に因る」と読み下します。「因る」は、よりどころにする、頼るという意味をもち、ここでは敵地の食料を利用して軍を支えることを表しています。
この考えの背景には、遠く離れた戦場へ食料を運ぶことの大きな負担があります。『孫子』は、遠くへ物資を運べば人民が貧しくなり、物価が上がり、財産が尽きていくと述べています。
つまり、もとの意味は、敵から食料を奪うという単純な強奪だけではありません。自国の負担を軽くし、敵の力を弱めながら、戦を長引かせないための兵站(へいたん:軍の食料や物資の手配)の考え方です。
この考えが日本語では、「糧を敵に借る」という形で、敵の食料を奪って使うことを表すようになりました。さらに、実際の戦の場面を離れて、反対者をたくみに利用するという比喩にも広がりました。
現在の用法では、相手をだましたり、むやみに傷つけたりする意味に限られません。競争相手の動き、反対意見、相手の失敗などをよく見て、それを自分の工夫や成長の材料にする場合にも使われます。
ただし、この故事成語は、相手に頼りきるという意味ではありません。敵や反対者の力をそのまま受けるのではなく、状況を見きわめ、相手の持つものを自分に有利な形へ変える知恵を表す言葉です。
「糧を敵に借る」の使い方




「糧を敵に借る」の例文
- 相手チームの作戦をよく研究し、自分たちの守備を強くしたのは、糧を敵に借るやり方だ。
- 厳しい批判を受けたが、その内容を改善に生かしたので、糧を敵に借る結果となった。
- 競争相手の成功例を学び、自社の企画に取り入れる姿勢は、糧を敵に借る考え方に近い。
- 反対意見をただ退けず、説明を深める材料にしたことで、糧を敵に借ることができた。
- 試合で相手の速い攻撃に苦しんだ経験を練習に生かし、糧を敵に借る形で成長した。
- 討論では相手の質問を利用して自分の主張を分かりやすく述べ、糧を敵に借る展開になった。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・『孫子』
・Oxford University Press『Oxford Advanced Learner’s Dictionary.』























