【ことわざ】
雨夜の月
【読み方】
あまよのつき
【意味】
存在すると分かっていても、目には見えないもののたとえ。また、想像するだけで実現しないことのたとえ。


【英語】
・castles in the air.(実現しそうにない空想や計画)
【類義語】
・雨夜の星(あまよのほし)
・空中楼閣(くうちゅうろうかく)
「雨夜の月」の語源・由来
「雨夜の月」は、もともと雨の降る夜の月を表す言い方です。月は空にあるはずなのに、雨雲に隠れて、その姿を確かめることができません。その具体的な情景から、「存在しているはずなのに目には見えないもの」や「思い浮かべるだけで実現しないもの」を表すことわざになりました。
この表現の古い用例として、『詞花和歌集(しかわかしゅう)』(1151年ごろ成立・平安時代後期、藤原顕輔撰)の恋の歌があります。『詞花和歌集』は、崇徳院の命を受けて藤原顕輔が撰した勅撰和歌集で、十巻から成ります。
その恋上・二〇七には、覚雅の歌として「影見えぬ君はあまよのつきなれや出でても人に知られざりけり」とあります。姿の見えない「君」を、雨の夜に雲に隠れてしまう月になぞらえた歌です。月は出ていても人に気づかれないように、思う相手も近くにいるのか遠くにいるのか、姿を確かめることができない、という切なさが重ねられています。
この歌では、「雨夜の月」は単なる天気の描写ではありません。月があることは分かっていても、雨のために見えないという状態が、会いたい人の姿を思うだけで実際には会えない心に結びついています。そこから、見えないものを心の中で思い描く表現としての力が生まれたといえます。
後には、恋の場面に限らず、「あっても目には見えないもの」一般を指す言い方として用いられるようになりました。さらに、目に見えないだけでなく、「想像だけで終わり、実現しないこと」のたとえにも広がりました。月そのものは確かにあるのに、目の前には現れないという点が、かなわない計画や手に入らない願いを表すのにも合っていたためです。
また、「雨夜の月」には、雨のために見ることのできない中秋の名月を指す用法もあります。この場合は、ことわざとしての比喩よりも、秋の季節にかかわる月の姿を表します。目に見えないもののたとえと、雨で隠れた月そのものを指す言い方とが、同じ「雨夜の月」という表現の中に残っているのです。
現在の使い方では、「雨夜の月」は、ただ「ないもの」を表す言葉ではありません。そこにあるはずだ、実現してほしい、会えるはずだと思うからこそ、見えないことや届かないことが強く感じられます。雨に隠れた月のように、存在や願いを心に思いながらも、まだ確かめられないものをしずかに表すことわざです。
「雨夜の月」の使い方




「雨夜の月」の例文
- 遠くへ転校した友人の笑顔は、思い出の中にあるだけで、今の私には雨夜の月だった。
- 資金も人手も足りないままの計画は、どれほど立派に見えても雨夜の月に終わりそうだ。
- 祖父が話してくれた昔の村の景色は、もう見ることのできない雨夜の月のように心に残った。
- 会議で出た新しい案は魅力的だったが、実行する手順がなく、今のところ雨夜の月でしかない。
- 雲に隠れた中秋の名月を楽しみにしていた家族は、今夜の月を雨夜の月として語り合った。
- 何度も会いたいと思いながら会えない相手は、彼にとって雨夜の月のような存在だった。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・藤原顕輔撰『詞花和歌集』1151年ごろ。
・『詞花和歌集』角川書店、1951年。
・Oxford University Press『Oxford Advanced American Dictionary』Oxford University Press.























