【ことわざ】
義理張るより頰張れ
【読み方】
ぎりばるよりほおばれ
【意味】
義理を守ろうとして無理な付き合いに金を使うよりも、自分の暮らしや利益を大切にせよということ。


【類義語】
・男伊達より小鍋立て(おとこだてよりこなべだて)
・名を捨てて実を取る(なをすててじつをとる)
・花より団子(はなよりだんご)
【対義語】
・義理と褌欠かされぬ(ぎりとふんどしかかされぬ)
「義理張るより頰張れ」の語源・由来
「義理張るより頰張れ」は、「義理張る」と「頰張る」を、共通する「張る」の響きによって結び付けたことわざです。一方には人付き合いのために無理をする行為を置き、もう一方には食べ物を口いっぱいに入れる動作を置いて、世間体よりも生活上の実益を優先するよう勧めています。
「義理張る」は、義理を強く言い立てたり、度を越して義理を守り通したりすることを表します。さらに、交際のための御馳走や贈り物が多すぎるという意味でも使われました。現在のことわざでは、特に後者の意味が強く、付き合いに費用をかけすぎることを指しています。
「義理張る」の古い用例は、浄瑠璃(じょうるり)の『吉野都女楠(よしののみやこおんなくすのき)』(1710年・江戸時代中期)に出てきます。そこには、「ええ義理ばったるおのこやと」とあり、義理を固く守ろうとする男の態度を表しています。
名詞の「義理張」も、江戸時代には広く使われました。雑俳(ざっぱい)の『川傍柳(かわぞいやなぎ)』(1780〜1783年・江戸時代後期)には、世間の義理をわきまえずに振る舞うことを詠んだ用例があります。この段階では、「義理張」は、人付き合いの上で義理を立て通すことを表していました。
為永春水の人情本『春色辰巳園(しゅんしょくたつみのその)』(1833〜1835年・江戸時代後期)では、「義理はり」が、茶屋や船宿への届け物などに費用がかさむことを表しています。義理を重んじる気持ちから、贈答や接待に多くの金を使うという、現在のことわざに直接つながる意味が、すでに現れています。
一方の「頰張る」は、頰が膨らむほど、食べ物を口いっぱいに入れることです。この言葉は、平安時代末期に橘忠兼が編んだ『色葉字類抄(いろはじるいしょう)』にも収められ、古くから使われてきました。
文学作品の古い用例としては、室町時代末期から近世初期の言葉を伝える『虎明本狂言(とらあきらぼんきょうげん)』の「末広がり」に、「どじゃうのすしをはうばって」とあります。ここでは、ドジョウのすしを口いっぱいに入れて食べるという、具体的な動作を表しています。
この二つを並べると、「義理を張る」と「頰を張る」という対照が生まれます。「義理張る」は、人の目を気にして交際に努めることです。それに対する「頰張れ」は、まず自分の口に食べ物を入れ、暮らしを守れという命令の形になっています。同じ「張る」を用いながら、抽象的な義理と、目に見える食事とを巧みに対比した言葉遊びです。
表記には、「義理張より頬張れ」「義理張るより頰張れ」などがあります。「義理張」のあとに送り仮名の「る」を付けるかどうかや、「ほお」の漢字に「頬」と「頰」のどちらを用いるかという違いはありますが、読み方と意味は同じです。
類義の「花より団子」は、花を眺める風流よりも、食べられる団子のほうを喜ぶことから、外観や風流より実利を重んじる意味を表します。「義理張るより頰張れ」は、その中でも特に、世間の付き合いに費用をかけることと、自分の生活を守ることとを比べた表現です。
反対の考え方を表す「義理と褌欠かされぬ」は、褌が欠かせないのと同じように、人としての義理も欠いてはならないと説きます。二つのことわざは、義理を守る大切さと、義理のために無理をしすぎない知恵という、生活の中で調和させるべき二つの考え方を示しています。
このように、「義理張るより頰張れ」は、江戸時代の社会で重んじられた義理付き合いと、それによって費用がかさむ現実を背景に、「張る」という音を生かして作られたことわざです。体面を守るために暮らしを犠牲にせず、身の丈に合った付き合いを心掛けるよう教えています。
「義理張るより頰張れ」の使い方




「義理張るより頰張れ」の例文
- 親戚への贈り物で家計を苦しくする父に、母は義理張るより頰張れと忠告した。
- すべての宴会に無理をして出席する必要はないと、先輩は義理張るより頰張れを引き合いに出した。
- 義理張るより頰張れというから、今年の祝い事は身の丈に合った贈り物にした。
- 近所付き合いに多額の費用をかける祖母を、家族は義理張るより頰張れと気遣った。
- 形式だけの接待を減らして社員の食事補助を充実させる方針は、義理張るより頰張れの考えに通じる。
- 義理張るより頰張れを心に留め、彼は無理な交際を断って家族の生活費を優先した。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・橘忠兼編『色葉字類抄』平安時代末期成立。
・『虎明本狂言「末広がり」』室町時代末期から近世初期成立。
・『吉野都女楠』1710年。
・『川傍柳』1780〜1783年。
・為永春水『春色辰巳園』1833〜1835年。























