【故事成語】
国大なりと雖も戦いを好めば必ず亡ぶ
【読み方】
くにだいなりといえどもたたかいをこのめばかならずほろぶ
【意味】
どれほど大きく強い国でも、戦争を好み、むやみに兵を用い続ければ、ついには滅亡するという戒め。


【英語】
・However large a state may be, if it loves war, it will surely perish.(国がどれほど大きくても、戦争を好めば必ず滅びる)
【類義語】
・兵強ければ則ち滅ぶ(へいつよければすなわちほろぶ)
・兵は凶器なり(へいはきょうきなり)
「国大なりと雖も戦いを好めば必ず亡ぶ」の故事
「国大なりと雖も戦いを好めば必ず亡ぶ」は、中国古代の兵法書『司馬法(しばほう)』の「仁本(じんぽん)」第一にある「故国雖大、好戦必亡」という一節から生まれた言葉です。原文は、「故に国大なりと雖も、戦いを好めば必ず亡ぶ」と読み下します。
『司馬法』の成り立ちについて、『史記(しき)』(前漢、紀元前1世紀、司馬遷著)の「司馬穰苴列伝(しばじょうしょれつでん)」には、斉(せい)の威王が家臣たちに古い司馬の兵法を整理させ、そこへ名将・司馬穰苴(しばじょうしょ)が学んだ兵法を加えさせたとあります。そのため、この書物は「司馬穰苴兵法」と呼ばれたと記されています。
「仁本」という篇名は、仁を根本に置くという意味です。その冒頭には、古代の政治は仁を根本とし、義によって国を治めたとあり、戦争についても、争いを広げるためではなく、人々を救い、不義を正し、戦いによって戦いを止める場合に限って認めるという考えが述べられています。
この言葉の直前には、出兵によって農作業の時期を乱さないこと、自国の民が苦しんでいるときに負担を加えないこと、敵国が喪中や災難のさなかにあるのにつけこまないこと、厳しい冬や夏には軍を起こさないことなどが説かれています。戦争を行う場合にも、自国と相手国の民をいたわらなければならないという教えです。
その教えを受けて、「故国雖大、好戦必亡」と続きます。「国が大きい」というだけでは、戦争を重ねても安全だとは限りません。兵士や物資をたびたび動かせば、民の暮らしは疲れ、国の力も少しずつ失われます。そのため、戦争そのものを好む国は、強大であっても滅亡を免れないと戒めています。
原文では、このあとに「天下雖安、忘戦必危」と続きます。「天下が平和であっても、戦いへの備えを忘れれば必ず危うくなる」という意味です。戦争を好んではならない一方で、平和なときにも、国を守る備えまで捨ててはならないとして、好戦と油断の両方を戒めています。
後の兵法書『李衛公問対(りえいこうもんたい)』では、唐の太宗がこの二つの言葉を『司馬法』から引き、攻撃と防御は一つの道理に基づくのかと李靖に尋ねています。李靖は、攻めるとは城を攻撃することだけではなく、相手の心を知ることであり、守るとは城壁を固めることだけではなく、自分たちの気力を保つことだと答えています。
『司馬法』と『李衛公問対』は、北宋の元豊年間、1078年から1085年にかけて、武官教育のために定められた七部の兵書「武経七書(ぶけいしちしょ)」に収められました。これによって、この一節は兵法の重要な戒めとして、後の時代にも広く読み継がれていきました。
日本では、室町時代中期の『文明本節用集(ぶんめいぼんせつようしゅう)』に、「国雖レ大好レ戦必亡 天下雖レ平忘レ戦必危」という形で収められています。漢文のまま掲げられたこの一節が訓読され、「国大なりと雖も戦いを好めば必ず亡ぶ」という日本語の言い方として受け継がれました。
この言葉が説くのは、力そのものを否定することではありません。国力が大きくても、その力を頼んで争いを繰り返せば、民の命や暮らしを損ない、やがて国を支える土台まで失うという教えです。強さを誇って戦いを求めるのではなく、平和を保つために力を慎重に用いることの大切さを伝えています。
「国大なりと雖も戦いを好めば必ず亡ぶ」の使い方




「国大なりと雖も戦いを好めば必ず亡ぶ」の例文
- 国大なりと雖も戦いを好めば必ず亡ぶという戒めを忘れた王は、領土を広げるために戦争を繰り返した。
- 歴史の授業で、国大なりと雖も戦いを好めば必ず亡ぶという言葉と、長い戦争で衰えた国々について学んだ。
- 国大なりと雖も戦いを好めば必ず亡ぶの教えどおり、度重なる出兵は国民の暮らしを苦しめた。
- 国大なりと雖も戦いを好めば必ず亡ぶという古い戒めは、武力だけに頼る政治の危うさを伝えている。
- 指導者は、国大なりと雖も戦いを好めば必ず亡ぶを胸に刻み、話し合いによる解決を求めた。
- 国大なりと雖も戦いを好めば必ず亡ぶという言葉は、強国にも節度が必要であることを教える。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・守屋洋・守屋淳著『新装版 全訳「武経七書」2 司馬法・尉繚子・李衛公問対』プレジデント社、2014年。
・司馬遷『史記』前漢。
・『司馬法』戦国時代。
・『李衛公問対』。
・『文明本節用集』室町時代中期。























