【ことわざ】
小田原評定
【読み方】
おだわらひょうじょう
【意味】
大勢で長く話し合っても意見がまとまらず、いつまでも結論が出ない会議や相談のたとえ。


【英語】
・a talking shop(議論ばかりで、決定や行動に至らない会議・組織)
【類義語】
・小田原談合(おだわらだんごう)
・堂々巡り(どうどうめぐり)
【対義語】
・即断即決(そくだんそっけつ)
「小田原評定」の語源・由来
「小田原評定」の背景には、天正18年(1590年・安土桃山時代)に、豊臣秀吉が後北条氏(ごほうじょうし)の本拠である小田原城を攻めた小田原合戦があります。北条方では、前当主の北条氏政と当主の北条氏直を中心に、秀吉の大軍へどのように対処するかが話し合われました。
北条方は、何も決めないまま戦いを迎えたわけではありません。かつて上杉謙信や武田信玄の攻撃を籠城(ろうじょう)によって退けた経験をもとに、小田原城へ立てこもる方針を採り、領国内からおよそ五万六千人を動員しました。これに対し、秀吉方は、二十一万から二十二万ともいわれる大軍で小田原を包囲しました。
包囲は4月3日から始まりました。戦いが続くなか、鉢形城、八王子城、韮山城などの支城が次々と開城または落城し、小田原城内では、抗戦を続けるか、和平を求めるかをめぐる話し合いが長引きました。7月5日、氏直はついに開城して降伏し、氏政と氏照らは切腹、氏直は高野山へ追放され、戦国大名としての後北条氏は滅亡しました。
この経過から、後の時代には、北条氏が決断できないまま議論ばかりを続け、そのために滅びたという物語が広まりました。ただし、北条方は事前に籠城方針を定め、大規模な防備と動員を行っていたため、最初から何一つ決められなかったと受け取るのは正確ではありません。「決まらない会議」という印象は、実際の合戦を分かりやすい教訓としてまとめた後世の語り方によって、強められたものです。
また、後北条氏には、重臣たちが政治上の問題を相談する合議の仕組みがありました。『北条五代記(ほうじょうごだいき)』(1641年・江戸時代前期)には、奉行衆が毎月二度、小田原で評定を行ったことが記されています。「評定」とは、人々が集まって相談し、物事を決めることです。
合戦後の言い伝えを、ことわざとして記した早い例は、『関八州古戦録(かんはっしゅうこせんろく)』(1726年成立・江戸時代中期、槙島昭武著)にあります。この書物には、決着しない評議を、関東の人々が「小田原談合」と呼びならわしたとあります。この段階では、現在の「小田原評定」ではなく、「小田原談合」という形が使われていました。
現在と同じ「小田原評定」という形の古い用例は、太田全斎の『諺苑(げんえん)』(1797年・江戸時代後期)にあります。『諺苑』は、当時使われていた俗語やことわざを集め、その意味や出典を示した書物です。この記録から、18世紀末には「小田原評定」という言い方が、ことわざとして定着していたことが分かります。
さらに、小山田与清の『松屋筆記(まつのやひっき)』(1818年ごろから1845年ごろ成立・江戸時代後期)には、北条氏直が決断せず、家臣に議論させても実行できないまま滅亡したため、まとまらない評議を「小田原評定」と呼ぶようになった、という趣旨が記されています。こうした江戸時代の書物を通して、北条氏滅亡の物語と「結論が出ない会議」という意味が強く結び付きました。
したがって、「小田原評定」は、1590年の小田原合戦を直接の背景としながら、合戦から百年以上がたった江戸時代に、「議論を重ねるばかりで決断できないこと」を戒める表現として形を整えたことわざです。現在では、戦いや政治に限らず、学校の委員会、職場の会議、地域の相談など、話し合いが長引いて何も決まらない場面に広く用います。
「小田原評定」の使い方




「小田原評定」の例文
- 学級会は小田原評定となり、遠足の班分けが下校時刻まで決まらなかった。
- 家族旅行の行き先について意見を出し続けたが、小田原評定で予約の期限を逃した。
- 商店街の会議は小田原評定に終わり、夏祭りの開催日を決められなかった。
- 新商品の名前をめぐる話し合いが小田原評定となり、発売の準備が遅れた。
- 災害への対応を急ぐべきときに、小田原評定を続けている余裕はない。
- 友人たちとの相談が小田原評定になったため、候補をしぼって多数決を行った。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2006年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・太田全斎『諺苑』1797年。
・槙島昭武『関八州古戦録』1726年成立。
・『北条五代記』1641年。
・小山田与清『松屋筆記』1818年ごろから1845年ごろ成立。























