【慣用句】
管を巻く
【読み方】
くだをまく
【意味】
酒に酔うなどして、とりとめのないことや不平をくどくどと言い続ける。


【英語】
・babble over one’s drink.(酒を飲みながら、とりとめなくしゃべる)
・blabber drunkenly.(酔って、まとまりなくしゃべり続ける)
【類義語】
・繰り言(くりごと)
・愚痴をこぼす(ぐちをこぼす)
「管を巻く」の語源・由来
「管を巻く」の「管」は、細長い筒だけでなく、機織り(はたおり)で糸を扱うための小さな道具も指します。機を織るときには、横糸を巻いた管を杼(ひ)に入れて使い、糸繰り車では、紡錘(つむ)に差した小さな軸に糸を巻き付けます。
『日葡辞書(にっぽじしょ)』(1603〜1604年・安土桃山時代、日本イエズス会編)にも、糸繰り車の紡錘に差し、糸を巻き付ける小さな軸という意味の「管」が記されています。当時すでに、「管」と糸を巻く作業とが、日常の言葉として結び付いていたことが分かります。
この慣用句の成り立ちには、主に二つの説明があります。一つは、「くだくだしい」を縮めた「くだ」という、くどいことや煩わしいことを表す言葉から、同じ音の「管」を連想し、それに「巻く」を添えたというものです。
もう一つは、管に糸を巻き付ける作業に由来するというものです。同じ動きを何度も繰り返す様子や、その際に生じるぶうぶうという音を、酔った人が同じ話や不平を繰り返す声に重ねたといいます。どちらか一つに確定するのではなく、「くだ」という語のもつ、くどいという意味と、管巻きの反復や音とが重なって生まれた表現と考えられます。
古い用例としては、『犬子集(えのこしゅう)』(1633年・江戸時代前期、松江重頼編)に、「花見にや酔て管捲糸ざくら」とあります。『犬子集』は、江戸時代初めに刊行された俳諧集(はいかいしゅう)で、この句では、花見の酒に酔って「管を巻く」様子と、「糸ざくら」という言葉とを取り合わせています。
句の中では「管捲」と詰めて書かれていますが、酒に酔った場面で、すでに現在と同じ意味に通じる使い方をしています。また、「管」と「糸」を同じ句に置くことで、酔った人のくどい話と、管に糸を巻く作業との掛け合わせを生かしています。
江戸時代前期の段階で、この表現は、酒に酔った人の話しぶりを表す言い方として使われていました。その後も、単なる「おしゃべり」ではなく、同じ内容や不平を、相手が困るほど繰り返す、好ましくない話し方を表す言葉として受け継がれました。
明治時代には、国木田独歩の『遺言(いごん)』(明治33年)に、「ろれつの回らぬ舌で管を巻いている者もある」とあります。祝杯を重ねた水兵たちが騒ぐ場面で用いられており、酔ってまとまりのない話を続けるという意味が、近代にもそのまま定着していたことを示しています。
現在では、酒に酔った場合に用いるのが代表的ですが、必ずしも酒が入っていなければ使えないわけではありません。不満やまとまりのない話を、同じ調子で、いつまでもくどくどと言い続ける様子にも用います。もとの糸巻きの動作と音、そして「くだくだしい」という語感が重なり、しつこい繰り言を表す「管を巻く」という慣用句になったのです。
「管を巻く」の使い方




「管を巻く」の例文
- 宴会で酒が進むにつれ、部長は昔の不満を持ち出して管を巻くようになった。
- 祖父は祝い酒を飲みすぎると、同じ武勇伝で管を巻くので、家族を困らせる。
- 友人は失恋の愚痴をこぼしながら、夜が明けるまで管を巻くことがある。
- 同窓会の帰り、彼は駅前で管を巻くようになり、仲間になだめられた。
- 酒を飲んで管を巻く客がいたため、店員は周囲に迷惑をかけないよう静かに声をかけた。
- 彼女は酔っていなくても、不満がたまると同じ話で管を巻くことがある。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・近藤いね子・高野フミ編集主幹『小学館プログレッシブ和英中辞典 第4版』小学館、2011年。
・松江重頼編『犬子集』1633年。
・日本イエズス会編『日葡辞書』1603〜1604年。
・国木田独歩『遺言』1900年。























