【ことわざ】
情けは人の為ならず
【読み方】
なさけはひとのためならず
【意味】
人に親切にすれば、その相手のためになるだけでなく、めぐりめぐって自分にもよい報いとなって返ってくるということ。


【英語】
・One good turn deserves another(親切には親切が返る)
【類義語】
・善因善果(ぜんいんぜんか)
・陰徳あれば陽報あり(いんとくあればようほうあり)
【対義語】
・恩を仇で返す(おんをあだでかえす)
「情けは人の為ならず」の語源・由来
「情けは人の為ならず」は、「人にかける情けは、相手のためになるだけではなく、やがて自分のためにもなる」という考えを表すことわざです。「情け」は人を思いやる心や親切を指し、「為ならず」は「ためにならない」ではなく、「その人のためだけではない」という古い言い回しです。この形のため、現代では反対の意味に取り違えられやすいことわざの一つになっています。
古い用例として重要なのは、『太平記(たいへいき)』(応安年間、1368〜1375年ごろ成立とされる軍記物語)巻第二十六に出てくる「情は人の為ならず」という形です。『太平記』は小島法師の作と伝えられますが、作者ははっきりしておらず、南北朝時代の争乱を描いた全四十巻の作品です。
その場面は、四条縄手(しじょうなわて)の戦いの中にあります。高師直(こうのもろなお)の陣へ楠木正行(くすのきまさつら)の軍が迫ったとき、上山六郎左衛門は急いで鎧を着ようとします。若党がその鎧を惜しんで止めようとすると、師直は、今まさに自分の命に代わって戦おうとする者に鎧を惜しむべきではない、と言って上山を許します。上山はその一言の情けを深く感じ、のちに師直の身代わりとなって討ち死にします。
この話の後には、中国の春秋時代の秦の穆公(ぼくこう)の例も続けて語られます。穆公の馬を食べた兵たちを、穆公は殺さず、かえって酒や薬を与えて助けました。のちに穆公が敵に囲まれて命を失いそうになったとき、その兵たちが穆公を守って戦い、穆公は死を逃れます。ここでも、相手を思いやる行いが、後になって自分を助ける力として返ってくる流れが示されています。
『太平記』では、この二つの話を受けて、「情は人の為ならずとは、加様の事をぞ申べき」とあります。つまり、上山が師直のために命をかけたことも、穆公を兵たちが助けたことも、もとは小さく見える情けが後に大きな報いとなった例として語られています。ここに、現在の「情けは人の為ならず」に通じる考え方が、はっきり表れています。
このことわざの根底には、よい行いにはよい結果が返るという考え方があります。近い表現に「善因善果」や「陰徳あれば陽報あり」があるように、人に知られない善行であっても、後に良い報いを受けるという発想とつながっています。ただし、「情けは人の為ならず」は、単に報いを期待する言葉ではありません。人への親切はその場で相手を助けるだけでなく、人と人との結びつきをめぐって、思いがけない形で自分を支えることがある、という生活の知恵を表しています。
現在では、「情けをかけると相手のためにならない」という意味に誤って使われることがあります。しかし、ことわざとしての中心はその反対で、人に親切にすることの価値を説く点にあります。人を助ける行いは、すぐには返ってこなくても、いつか社会の中をめぐり、別の形で自分の支えになることがある、という穏やかな教えとして受け継がれてきました。
「情けは人の為ならず」の使い方




「情けは人の為ならず」の例文
- 情けは人の為ならずというように、困っている友人を助けたことが後に自分を支えた。
- 落とし物を届けた親切が思わぬ形で返ってきて、情けは人の為ならずを実感した。
- 情けは人の為ならずだから、見返りを求めずに地域の清掃活動に参加した。
- 祖母は、情けは人の為ならずを忘れず、人に親切にすることを大切にしていた。
- 仕事で後輩を丁寧に助けた経験から、情けは人の為ならずという言葉の重みを知った。
- 情けは人の為ならずとは、親切が人とのつながりをめぐって自分にも返るという考えを表す。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・『太平記』応安年間(1368〜1375年)成立か。
・Cambridge University Press『Cambridge Advanced Learner’s Dictionary & Thesaurus』。























