【故事成語】
口は禍の門
【読み方】
くちはわざわいのかど(「もん」とも読む)
【意味】
不用意に口にした言葉が災難を招くことがあるため、発言は慎むべきだという戒め。


【英語】
・A word spoken is past recalling.(口に出した言葉は取り消せない)
【類義語】
・口は禍の元(くちはわざわいのもと)
・舌は禍の根(したはわざわいのね)
・禍は口から(わざわいはくちから)
「口は禍の門」の故事
「口は禍の門」の「口」は、人が言葉を発するところを表します。「門」は、人や物が出入りする場所です。つまり、口から出た言葉を入り口として災難がやって来るという、分かりやすい比喩になっています。
この言葉の背景には、中国の仏教説話があります。北魏の法場訳と伝わる『辯意長者子經』には、長者の子である辯意が、仏と大勢の弟子を自宅へ招き、食事を供養する話が出てきます。
食事の途中、一人の貧しい子どもが、食べ物を求めてやって来ました。しかし、まだ食事の儀式が終わっていなかったため、だれからも何も与えてもらえませんでした。その子は腹を立て、自分が王になったなら、僧たちの頭を鉄の車輪でひきつぶしてやろうと、恐ろしい言葉を口にしました。
その後、別の貧しい子どもが訪れると、今度は人々から多くの食べ物を与えられました。その子は喜び、自分が王になったなら、仏と弟子たちを七日間供養して恩返しをしようと、心に誓いました。二人は同じように貧しくても、口にした言葉と心に抱いた思いは正反対でした。
やがて、二人は旅先の草むらで眠りました。その国では、王が後継者を残さずに亡くなったため、家来たちが新しい王となる人物を探していました。家来たちは、善い願いを口にした子どもの上に不思議な雲がかかっているのを見つけ、その子を王に迎えました。
新しい王を乗せた行列が都へ戻る途中、その車輪は、草むらで眠り続けていたもう一人の子どもの頭をひいてしまいました。人を害そうと口にした子どもは、自分が願ったのと同じ災いを、思いがけず自ら受けることになったのです。
仏は、この出来事を説き明かし、「人心是毒根、口為禍之門」と語りました。心に悪意を抱き、それを言葉にすれば、その言葉によって自分の身に災いが及ぶという意味です。続く句では、善い心から善い言葉を発すれば、福を受けることも説いています。
この句と説話は、唐の道世が編んだ『法苑珠林(ほうおんじゅりん)』(668年成立)の巻五十六「貧賤篇」にも収められました。『法苑珠林』は、多くの仏典や説話を内容別に集めた全百巻の書物で、日本の仏教文学にも大きな影響を与えました。
日本では、鎌倉時代の説話集『十訓抄(じっきんしょう)』(1252年成立)の第四篇に、「口は是禍の門也、舌は是禍の根也」とあります。第四篇は、人についてあれこれ多く語ることを戒める教訓を集めた部分であり、この言葉も、軽率な発言を慎むための戒めとして取り入れられました。
明代の宋濂が作った『磨兜堅箴』にも、「慎勿言、口為禍門」とあります。言葉を口から出せば、その後に災いが続くので、沈黙によって口を守るように説いており、この表現が長く慎言の教えとして受け継がれたことが分かります。
日本語では、「門」を「元」に置き換えた「口は禍の元」という形も広く用いられます。「門」は災いが入って来る場所を鮮やかに表し、「元」は災いを生み出す原因を直接表しますが、どちらも、不用意な発言は後から取り返せない問題を招くため、言葉を慎むべきだと教えるものです。
「口は禍の門」の使い方




「口は禍の門」の例文
- 秘密を軽々しく友人に話した結果、口は禍の門となって大きな争いを招いた。
- 事実を確かめずにうわさを広めれば、口は禍の門になりかねない。
- 腹を立てたまま書き込んだ一言で批判を浴び、彼は口は禍の門だと身にしみて悟った。
- 会議で取引先の内情を漏らした社員は、口は禍の門という教訓を痛感した。
- 家族の悩みを近所で話した母は、口は禍の門だったと後悔した。
- 口は禍の門という言葉を心に留め、相手を傷つける発言を慎んだ。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』全3巻、小学館、2006年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・法場訳『辯意長者子經』北魏。
・道世『法苑珠林』668年。
・『十訓抄』1252年。
・宋濂『磨兜堅箴』明代。























