【ことわざ】
虻も取らず蜂に刺される
【読み方】
あぶもとらずはちにさされる
【意味】
何かを得られないうえに、さらに損害まで受けること。失敗して何も手に入らないだけでなく、余計な痛手を負うことを表す。


【英語】
・fall between two stools(どちらの目的も果たせず失敗する)
【類義語】
・虻蜂取らず(あぶはちとらず)
・虻蜂取らず鷹の餌食(あぶはちとらずたかのえじき)
【対義語】
・一石二鳥(いっせきにちょう)
・一挙両得(いっきょりょうとく)
「虻も取らず蜂に刺される」の語源・由来
「虻も取らず蜂に刺される」は、「虻蜂取らず」の考え方をさらに強めたことわざです。「虻蜂取らず」は、二つのものを同時に手に入れようとして、結局どちらも得られないことをいう言葉で、古くは「虻も取らず蜂も取らず」という形で使われました。
このもとの形には、かなり早い段階からいくつかの異形があります。宝暦ごろの『言彦抄』には「あぶもとらず蜂もつかず」、鍬形蕙斎筆『諺画苑(げんがえん)』(1808年・江戸時代後期)には「あふもとらすはちもとらす」、明治期の『国民の品位』(1891年)には「あぶも取らねば蜂も得とらん」といった形が出てきます。いずれも、虻と蜂の両方を得ようとして、結局うまくいかないという発想をもっています。
『諺画苑』では、このことわざが絵でも表されています。画面には「あぶもとらずはちもとらず」とあり、神社の雑役をする男らしい人物が、蜂に刺されたのか顔を腫らしてうつむいて立ち、足元には大きな蜂の巣があります。蜂の子を取ろうとして、逆に蜂に刺されたような場面です。
この絵は、「虻も取れず、蜂も取れなかった」という失敗に、さらに「蜂に刺される」という痛手が重なった姿を思わせます。現在の「虻も取らず蜂に刺される」は、まさにそのように、何も得られないばかりか損害まで受ける、という意味をはっきり表す言い方になっています。
また、寛政12年、つまり1800年の『松登妓話』には、「あぶもとらずはちもとらず」ということわざが、客を一人失ったうえに、別の大事な客も来なければ困るという場面で使われています。ここでは、二つの望みがどちらもかなわない、たいへん困った結果をいう言葉として働いています。
江戸時代後期の人情本『花の志満台』(1836〜1838年)には、「悪くすると虻蜂取らずに、ならうも知れねえやス」という用例があります。このころには、「虻も取らず蜂も取らず」のような長い形から、「虻蜂取らず」という短い形も定着していたことが分かります。
虻と蜂は見た目が似ていますが、蜂には蜜や蜂の子などの利用価値があり、虻は病を媒介する有害なものとして受け取られてきました。なぜ虻まで取ろうとしたのかは、ことわざの形だけでははっきりしませんが、両方を欲張ってねらうこと自体が、失敗のもととして語られてきたといえます。
つまり、このことわざは、「二つを同時に欲張ると、どちらも得られない」という古い言い方を土台にしています。そこへ「蜂に刺される」という痛みのある結果を加えることで、失敗して何も得られないだけでなく、さらに損まで受けるという、より厳しい教訓を表すようになったのです。
「虻も取らず蜂に刺される」の使い方




「虻も取らず蜂に刺される」の例文
- 二つの大会に同時に出ようとして練習が足りず、どちらも予選落ちしたうえに体調を崩し、虻も取らず蜂に刺される結果となった。
- 安い品を探して何軒も店を回ったが売り切れで、交通費だけがかさみ、虻も取らず蜂に刺されることになった。
- 複数の約束を欲張って入れたため、どちらにも遅刻し、信用まで失って、虻も取らず蜂に刺される形になった。
- 急いで得をしようとした投資は利益を出せず、手数料も多く取られて、虻も取らず蜂に刺される結末だった。
- 文化祭で二つの係を引き受けた兄は、準備をどちらも終えられず、先生に注意され、虻も取らず蜂に刺される思いをした。
- 旅行の予定を詰め込みすぎたため、名所をゆっくり見られず、忘れ物までして、虻も取らず蜂に刺される一日になった。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・鍬形蕙斎筆『諺画苑』1808年。
・鵬鵡斎豊年貢『松登妓話』1800年。
・松亭金水『花の志満台』1836〜1838年。
・Cambridge University Press『Cambridge English Dictionary』。























