【故事成語】
烏の雌雄
【読み方】
からすのしゆう
【意味】
二つのものがよく似ていて、区別しにくいことのたとえ。


【英語】
・hard to tell apart.(区別しにくい)
【類義語】
・瓜二つ(うりふたつ)
【対義語】
・一目瞭然(いちもくりょうぜん)
「烏の雌雄」の故事
「烏の雌雄」は、中国最古の詩集である『詩経(しきょう)』に出てくる言葉にもとづきます。『詩経』は儒学の経書の一つで、現存する本文は『毛詩』とも呼ばれ、戦国時代に成立したものと考えられています。
もとになったのは、『詩経』の「小雅(しょうが)・正月(せいげつ)」にある「具曰予聖、誰知烏之雌雄」という一節です。これは、「人々はみな自分こそ賢いと言うが、烏の雄と雌をだれが見分けられるだろうか」という意味に近い言葉です。
「正月」は、世の中が乱れ、うわさや偽りの言葉が広がることを憂える詩です。詩の前の部分には「民之訛言」とあり、人々の誤った言葉や流言が広まっている様子がうたわれています。
その流れの中で、「みな自分を賢いと言うが、烏の雌雄などだれに分かるのか」と述べています。ここでの烏は、雄も雌も外見がよく似ていて、すぐには区別しにくいものの代表として用いられています。
この一節は、単に鳥の見分け方を述べたものではありません。正しいことと誤ったこと、賢い言葉とまぎらわしい言葉を、簡単には見きわめられないという嘆きを、烏の雌雄の見分けにくさで表しています。
そのため、後には「烏の雌雄」が、よく似ていて区別しにくいもののたとえとして使われるようになりました。また、「誰か烏の雌雄を知らんや」という形では、人の心や物事の是非、善悪などがなかなか判定しにくいという意味を表します。
古い漢語の形では、「烏之雌雄」とも書きます。「之」は「の」に当たる働きをする字なので、「烏之雌雄」は、そのまま「烏の雌雄」と読める形です。
日本語では、漢文訓読の調子を残した「誰か烏の雌雄を知らん」という言い方も使われました。明治時代の尾崎紅葉『金色夜叉』(1897〜1898年)にも、この形の用例が出てきます。
現在の「烏の雌雄」は、二つのものがあまりによく似ていて、どちらがどちらか分からない場面に使います。物の見た目だけでなく、考えや言動の違いがはっきりしない場面にも使える表現です。
ただし、日常会話ではやや古風で改まった響きをもちます。文章や説明の中で、似ている二つを見分ける難しさを落ち着いて表したいときに用いると、言葉の由来が生きます。
「烏の雌雄」の使い方




「烏の雌雄」の例文
- 二つの古い茶碗は形も色もそっくりで、烏の雌雄のように見分けがつかない。
- 双子の兄弟は声までよく似ていて、電話では烏の雌雄に近い。
- 二つの案は長所も短所も似通い、会議では烏の雌雄のように判断が難しかった。
- 本物と精巧な写しは烏の雌雄で、専門家でなければ区別できない。
- 二つの店の看板は色づかいまで似ており、初めて来た人には烏の雌雄だ。
- 証言が食い違っているようで実はよく似ており、真相は烏の雌雄の状態だった。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・『旺文社世界史事典 三訂版』旺文社。
・『詩経』。
・尾崎紅葉『金色夜叉』1897〜1898年。























