【ことわざ】
聞けば聞き腹
【読み方】
きけばききばら
【意味】
聞かなければ平気でいられることも、聞いてしまうと腹立たしくなるということ。


【英語】
・What someone doesn’t know won’t hurt them.(知らないことなら傷つかずにすむ)
・Ignorance is bliss.(知らないほうが心穏やかでいられる)
【類義語】
・知らぬが仏(しらぬがほとけ)
【対義語】
・聞き得(ききどく)
「聞けば聞き腹」の語源・由来
「聞けば聞き腹」は、「聞けば」と「聞き腹」から成ることわざです。「聞けば」は、ある話を耳にしたならば、という条件を表します。「聞き腹」は、人に言われたことなどが気に入らず、聞いて腹を立てることを表す言葉です。
このことわざの大切な点は、ただ「腹が立つ」という意味だけではありません。知らなければそのまま過ごせたことでも、聞いたために心が乱れ、怒りが起こるという、情報を知ったあとの気持ちの変化を表します。
古い形として、「聞ば聞腹」という表記があります。この形は、『諺苑(げんえん)』(1797年、江戸時代後期、太田全斎著)に出てきます。
『諺苑』は、俗語や俗諺を集め、いろは順に配し、語釈や出典などを示した七巻の国語辞書です。太田全斎は江戸時代後期の漢学者・音韻学者で、『諺苑』と、その改編本『俚言集覧』の著者として知られます。
実際の文章の中に出てくる古い用例としては、式亭三馬の滑稽本『浮世風呂(うきよぶろ)』(1809〜1813年、江戸時代後期、式亭三馬著)があります。『浮世風呂』は、銭湯に集まる江戸庶民の会話を通して、当時の暮らしを描いた作品です。
『浮世風呂』三には、「聞けば聴腹(キキバラ)で、つひ一言もこごとを申ますと」という形が出てきます。ここでは、聞いたために腹が立ち、つい小言を言ってしまうという場面で使われています。
この用例では、「聞き腹」が「聴腹」とも書かれています。表記は違っても、音としては「ききばら」であり、話を聞いたことで腹立たしくなるという意味は同じです。
後には、「聞けば聞き腹」という、現在の形に近い言い方でも使われました。二葉亭四迷の小説『其面影(そのおもかげ)』(明治39年、二葉亭四迷作)には、「聞けば聞き腹とか、あまり愉快でもなかったので」という用例が出てきます。
『其面影』は、義妹への思いに悩む教師を描いた明治時代の小説です。この用例では、聞いた内容によって楽しい気持ちになるどころか、かえって不快になる心の動きが、「聞けば聞き腹」という言い方で表されています。
このことわざは、「知ることはいつもよいことだ」と一方的にいう表現ではありません。世の中には、聞かなければ穏やかにいられるのに、聞いたために腹が立つこともある、という人情の一面を言い表しています。
ただし、「聞けば聞き腹」は、必要なことまで聞かないほうがよいという意味ではありません。余計な悪口や不愉快な事情を耳にしたために、知らずにすんだ怒りが生じるような場面で使うことわざです。
「聞けば聞き腹」の使い方




「聞けば聞き腹」の例文
- 友人の陰口をわざわざ知らされ、聞けば聞き腹でしばらく気分が沈んだ。
- 落ち着いていた父も、余計なうわさを耳にして聞けば聞き腹となった。
- 知らずにすめば平気だった話まで聞かされ、まさに聞けば聞き腹だった。
- 会議のあとで自分への不満を聞かされ、聞けば聞き腹の思いをした。
- 母は細かい文句を伝え聞いて、聞けば聞き腹だからもう言わないでほしいと言った。
- 聞けば聞き腹になるような悪口なら、むやみに人へ伝えないほうがよい。
主な参考文献
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・小学館国語辞典編集部編『デジタル大辞泉』小学館。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・太田全斎『諺苑』1797年。
・式亭三馬『浮世風呂』1809〜1813年。
・二葉亭四迷『其面影』1906年。
・Merriam-Webster『Merriam-Webster.com Dictionary』Merriam-Webster.























