【ことわざ】
カエサルの物はカエサルに
【読み方】
カエサルのものはカエサルに
【意味】
神への信仰と国家への義務とは別の次元のものであり、両方を守ることは矛盾しないということ。また、物は本来あるべきところへ戻すべきだというたとえ。


【英語】
・Render unto Caesar the things which are Caesar’s.(カエサルのものはカエサルに返せ)
【類義語】
・カイゼルの物はカイゼルに(カイゼルのものはカイゼルに)
・カイザルのものはカイザルに(カイザルのものはカイザルに)
「カエサルの物はカエサルに」の語源・由来
このことわざは、『新約聖書』の「マタイによる福音書」に出てくるイエスの言葉に由来します。「マタイによる福音書」は、新約聖書の四つの福音書の一つで、この表現は第22章21節に結びつく言葉です。
もとの場面では、ファリサイ派の人々がイエスを試そうとして、「皇帝に税金を納めるのは、律法に適っているでしょうか、適っていないでしょうか」と尋ねます。税を認めればローマ帝国への服従を肯定する発言になり、否定すれば支配者への反抗と受け取られかねない、答えにくい問いでした。
イエスは、税として納めるお金を見せるように言い、人々がデナリオン銀貨を持って来ると、「これは、だれの肖像と銘か」と尋ねました。人々が「皇帝のものです」と答えると、イエスは「皇帝のものは皇帝に、神のものは神に返しなさい」と述べました。
ここでいう「カエサル」は、古代ローマの支配者を指す言葉として受け取られます。日本語では、同じ言葉が「カエサル」「カイザル」「カイゼル」などの形で表され、「皇帝のものは皇帝に」という訳し方も用いられてきました。
この言葉の要点は、税金として納めるべきものは社会の秩序に従って納め、神に向けるべき信仰や心は神に向ける、という区別にあります。国家への義務と神への務めを同じ次元で争わせず、それぞれの場所に返すという考え方が、現在の意味の土台になっています。
日本語訳の古い形としては、明治13年の『引照新約全書』「馬太伝福音書」に、「カイザルの物(モノ)はカイザルに帰(かへ)し、また神の物は神に帰すべし」という用例が伝わります。この段階では「カエサル」ではなく「カイザル」という表記で、聖書の言葉として受け入れられていました。
その後、この表現は宗教上の文脈だけにとどまらず、「本来の持ち主に返せ」「本来あるべきところへ戻せ」という広い意味にも使われるようになりました。借りた物を返す、預かった仕事をふさわしい人に戻す、公の義務をきちんと果たす、といった場面で、「カエサルの物はカエサルに」と言うことがあります。
現在のことわざとしては、二つの意味が重なって働いています。一つは、信仰や心の問題と社会の義務を混同しないという意味です。もう一つは、物や責任を本来の持ち主や場所へ返すという意味です。どちらの場合も、「それぞれに属するものを、それぞれに返す」という考えが、このことわざの芯になっています。
「カエサルの物はカエサルに」の使い方




「カエサルの物はカエサルに」の例文
- 借りた辞典を自分の机に置きっぱなしにせず、カエサルの物はカエサルにと考えて図書室へ返した。
- 会計の記録は会計係に戻すべきなので、カエサルの物はカエサルにという判断で担当者へ渡した。
- 友人から預かったノートを長く持ったままにせず、カエサルの物はカエサルにと翌日返した。
- 町内会の会費と家のお金を分けて管理するのは、カエサルの物はカエサルにという考えに通じる。
- 学校の備品を家の物のように使わず、カエサルの物はカエサルにと元の場所へ戻した。
- 信仰の問題と社会の決まりを混同しない考え方を、カエサルの物はカエサルにという言葉で表した。
主な参考文献
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2006年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・共同訳聖書実行委員会訳『聖書 新共同訳』日本聖書協会、1987年。























