【ことわざ】
鬼も角折る
【読み方】
おにもつのおる
【意味】
鬼のような悪人でも、何かのきっかけによって心を入れ替え、善人に変わることのたとえ。転じて、強情をやめることや、困り果てること。


【英語】
・turn over a new leaf(心を入れ替えて、以前よりよい行いを始める)
【類義語】
・心の角を折る(こころのつのをおる)
・角を折る(つのをおる)
【対義語】
・三つ子の魂百まで(みつごのたましいひゃくまで)
「鬼も角折る」の語源・由来
「鬼も角折る」は、恐ろしい鬼が自らの角を折る姿に、悪い心や強情を捨てることを重ねた言い方です。鬼の角は邪悪な心のたとえにもなり、「角を折る」は、高慢な態度や強情をやめ、素直になる意味で使われています。
現在のことわざに先立つ表現は、『後撰夷曲集(ごせんいきょくしゅう)』(1672年・江戸時代前期、生白堂行風編)に見られます。この狂歌(きょうか)集には、「さし出る心の角をおるならば無の字をかけて物は思はじ」とあります。
ここでいう「心の角」は、鬼の角になぞらえた邪悪な心のことです。その角を折るとは、それまでの悪い行いや考えを悔い改め、心を正すことを表します。この段階では、人そのものを鬼にたとえるのではなく、人の内面にある邪心を「角」として描いています。
「鬼も角折る」に近い形は、浮世草子(うきよぞうし)の『元禄大平記(げんろくたいへいき)』(1702年・江戸時代中期、都の錦著)巻二に、「恋には鬼も角を折けり」と見られます。同書は元禄十五年に刊行された作品で、別名を『古今評判諸けい太平記』といいます。
この一節では、恋をきっかけに、鬼ほど恐ろしく頑なな者でさえ角を折り、態度をやわらげる様子を表しています。「心の角を折る」という内面の比喩から、悪人や頑固者そのものを鬼に見立てる形へと移り、目に浮かびやすい言い回しとなっています。
古い用例では、「鬼も角を折る」と助詞の「を」を入れていますが、現在は「を」を省いた「鬼も角折る」が、ことわざの形として定着しています。「鬼のような悪人でも善人に変わる」という意味を基本とし、後には、我を張るのをやめることや、相手に圧倒されて困り果てることまで表すようになりました。
つまり、このことわざの「角」は、鬼の恐ろしさを示すだけのものではありません。悪意や強情、意地などの象徴であり、それを自ら折る姿によって、人は大きなきっかけを得れば心や態度を改めることがある、という意味につながっています。
「鬼も角折る」の使い方




「鬼も角折る」の例文
- 近所で恐れられていた頑固者が、捨て犬を助けて世話を続けるようになり、鬼も角折ると評判になった。
- 利益だけを求めていた経営者が、事故を機に安全第一へ方針を変えたのは、まさに鬼も角折るというものだ。
- 乱暴者だった兄が子どもの誕生を境に穏やかになり、家族は鬼も角折るのたとえどおりだと話した。
- 何を言われても非を認めなかった彼が深く謝ったので、友人たちは鬼も角折るとはこのことだと驚いた。
- 人をだましていた男が罪を償い、被害者を支える活動を始めた姿は、鬼も角折るを思わせた。
- 強硬な態度を崩さなかった議長も住民の切実な訴えに考えを改め、その変化は鬼も角折ると呼ぶにふさわしかった。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2006年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・Cambridge University Press『Cambridge Academic Content Dictionary』Cambridge University Press、2009年。
・生白堂行風編『後撰夷曲集』1672年。
・都の錦『元禄大平記』1702年。























