【ことわざ】
親に先立つは不孝
【読み方】
おやにさきだつはふこう
【意味】
子供が親より先に死ぬことは、親をこの上なく悲しませる大きな親不孝であるということ。


【類義語】
・逆縁(ぎゃくえん)
【対義語】
・親孝行(おやこうこう)
「親に先立つは不孝」の語源・由来
「親に先立つは不孝」は、「親に先立つ」と「不孝」を結び付けたことわざです。「先立つ」は、もともと人の前に立つことや、ほかの物事より先に起こることを表しますが、そこから、人よりも先にこの世を去るという意味でも使われるようになりました。現在でも、「親に先立つ」「妻に先立たれる」のように用います。
「先立つ」を「先に死ぬ」という意味で用いた古い例は、『斎宮女御集(さいぐうのにょうごしゅう)』(985年ごろ・平安時代中期)にあります。「さきだつくもとならんものとは」とあり、自分が先に死んで雲となることを表しています。『源氏物語』(1001〜1014年ごろ・平安時代中期)にも、「後れさきだたじ」という言い方があり、愛する者どうしが、どちらも相手を残して先に死ぬまいと約束する場面で使われています。
一方の「不孝」は、親によく仕えず、孝行を尽くさないことを表す言葉です。古くは「ふきょう」とも読みましたが、「ふこう」という読みも中世までに使われており、13世紀前半の『平家物語』にも「不孝のいたり」という例があります。このことわざの「不孝」は、運が悪いことを表す「不幸」ではなく、親への孝行に反するという意味です。
ことわざの出典は、『源平盛衰記(げんぺいせいすいき)』(14世紀後半成立、編者未詳)です。この作品は、『平家物語』のさまざまな伝承や説話を集め、平家の興亡を詳しく描いた四十八巻の大作です。教訓を重んじる記述が多く、「親に先立つは不孝」も、親子の道を説く言葉として物語の中に出てきます。
巻十一では、平清盛(たいらのきよもり)の子である平重盛(たいらのしげもり)の病が重くなります。清盛は使者を通して、どうして十分な治療を受けないのかと重盛に問いかけ、「親に先立は不孝とこそ申侍」と伝えます。これは、親より先に死ぬことは親不孝だと申します、という意味です。
その言葉に続いて、今日明日にも命が尽きるかもしれない老いた父母を残し、嘆き悲しませることは罪深いと説いています。そして、海を渡って来た優れた医師が今津に着いているので、その治療を受けるよう、重盛へ勧めます。清盛は、父母を悲しませてはならないという孝行の教えを示し、息子に生き延びてほしいという願いを伝えたのです。
古い本文では「親に先立は不孝」という形ですが、現在は、動詞の送り仮名を表した「親に先立つは不孝」という形で定着しています。物語の中では、病気の息子に治療を受けさせるための言葉でしたが、やがて特定の人物を離れ、子供が親より先に亡くなることの痛ましさを表すことわざとして使われるようになりました。
親より先に子供が亡くなることは、「逆縁」ともいいます。この意味の「逆縁」は、親が子供を弔うという、本来とは逆になった親子の順序を表す言葉で、1703年の『広原海』にも用例があります。「親に先立つは不孝」は、この逆縁を、親への孝行という面から言い表したことわざです。
このことわざは、亡くなった子供を責めるための言葉というよりも、子供を失った親の悲しみが、ほかに代えようのないほど深いことを伝えています。親より長く生き、親を安心させることも大切な孝行であるという、昔の人々の願いが込められた表現です。
「親に先立つは不孝」の使い方




「親に先立つは不孝」の例文
- 祖父は、親に先立つは不孝という言葉には、子供を失う親の深い悲しみが表れていると語った。
- 物語の中で、父は病気の息子に親に先立つは不孝と告げ、治療を受けるように勧めた。
- 親に先立つは不孝ということわざから、親が子供の無事を願う心の強さが伝わる。
- 追悼の席では、親に先立つは不孝という言葉を軽々しく使わず、遺族の悲しみに寄り添った。
- 親に先立つは不孝という昔の教えを、亡くなった本人への非難ではなく、親の嘆きの深さを示す表現として受け止めた。
- 講演では、親に先立つは不孝の由来を通して、中世の人々が孝行をどのように考えていたかが語られた。
主な参考文献
・集英社辞典編集部編『会話で使えることわざ辞典』集英社、1989年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・国史大辞典編集委員会編『国史大辞典』吉川弘文館、1979〜1997年。
・『斎宮女御集』985年ごろ。
・『源平物語』1001〜1014年ごろ。
・『源平盛衰記』14世紀後半成立。























