【慣用句】
煽りを食う
【読み方】
あおりをくう
【意味】
強い風や動きの衝撃を受けること。転じて、周囲の状況の変化により、思いがけない災難や悪い影響を受けること。


【英語】
・suffer the fallout from …(…の余波・悪影響を受ける)
・be affected by the fallout from …(…の余波によって影響を受ける)
【類義語】
・とばっちり
・巻き添え(まきぞえ)
・側杖を食う(そばづえをくう)
「煽りを食う」の語源・由来
「煽りを食う」は、中国の古い故事に基づく故事成語ではなく、日本語の「煽り」と「食う」が結びついてできた慣用句です。「煽り」は、動詞「あおる」の連用形が名詞になった言葉で、もとは強い風による動揺や衝撃、またその余勢や影響を表します。
「あおる」という動詞には、古くは、あぶみで馬具の障泥(あおり)をけって馬を急がせる意味がありました。『新撰字鏡』(しんせんじきょう、898〜901年ごろ成立)には「あふる」の形が示され、のちの「あおる」につながる古い用法として伝わっています。
中世以降には、「あおる」は風などが物を吹き動かす意味でも使われるようになります。『玉塵抄』(ぎょくじんしょう、1563年)には、鳥が羽を「あをって」飛ぶという用例があり、ここでは羽を動かして風を起こす、または風を受けて動くような具体的な動作が表されています。
さらに、「あおる」は、火を盛んにするためにうちわなどで風を送る意味も持ちました。『日葡辞書』(にっぽじしょ、1603〜1604年)にもこの用法が伝えられており、風を起こして物を動かすという基本の意味が、火の勢いを増す動作にも広がっていたことが分かります。
名詞の「煽り」は、そのような「あおる」動作や、それによって生じる衝撃・余勢を表す言葉として用いられました。強い風そのものだけでなく、その風を受けた結果として起こる揺れ、傾き、影響まで含むようになった点が、「煽りを食う」の意味を考えるうえで大切です。
「食う」は、ここでは食べ物を口に入れる意味ではありません。「損を食う」「小言を食う」などと同じように、好ましくないことを身に受ける、こうむるという意味で働いています。そのため、「煽りを食う」は、文字どおりには「風や勢いの衝撃を身に受ける」という形になります。
この慣用句の古い用法としては、強い風や動きの衝撃を受ける意味が早くから確認されています。『和英語林集成』(わえいごりんしゅうせい、1867年、J・C・ヘボン編)の初版には、この物理的な意味が示されており、まずは目に見える風や動きの力を受ける表現として用いられていました。
一方で、より早い段階から、比喩的な意味に近い用例もあります。洒落本(しゃれぼん)の『船頭部屋』(せんどうべや、文化年間[1804〜1818]刊、猪牙散人著)には、「どふ風がかわって、あをりをくふ」という形が出てきます。ここでは、実際の風だけでなく、状況が変わったことでその影響を受けるという意味に近づいています。
この「どふ風がかわって」という言い回しは、風向きの変化を思わせながら、人の運命や周囲の事情の変化を重ねて表しています。つまり、外から吹いてくる風の力を受けることが、やがて「自分の外で起きた変化の影響を受ける」という比喩に移っていったと考えられます。
明治時代には、相手の態度や威勢に影響される意味もはっきり出てきます。歌舞伎(かぶき)の『天衣紛上野初花』(くもにまごううえののはつはな、1881年・明治14年、河竹黙阿弥作)には、「そんな煽りを喰ったってびくともする丑松ぢゃあねえ」という用例があります。
この用例では、相手がおどすような勢いを見せても、それに動じないという意味で使われています。強い風に体があおられるように、人の威勢や態度に心が動かされることを「煽りを食う」と表したものです。
その後、「煽り」は、ある出来事の余勢や影響を表す名詞として広く使われるようになりました。「突風の煽りで塀が倒れた」のような物理的な使い方から、「不況の煽りで客足が伸びない」のような社会的・経済的な影響を表す使い方へ、意味の幅が広がっています。
現在の「煽りを食う」は、この後者の意味で使われることが多い表現です。たとえば、電車の遅れ、台風、物価の上昇、不況、他人の失敗など、自分だけではどうにもできない外の事情によって、思わぬ迷惑や不利益を受ける場合に用いられます。
この慣用句は、「風を受ける」という具体的な感覚から、「余波を受ける」という抽象的な意味へ広がった表現です。外から来る力に押され、自分の予定や立場が乱されるという点で、現在の「周囲の変化の影響を受ける」という意味につながっています。
「煽りを食う」の使い方




「煽りを食う」の例文
- 台風で電車が止まり、その煽りを食って多くの生徒が始業時刻に間に合わなかった。
- 近くの道路工事の煽りを食う形で、店の前を通る人が大きく減った。
- 原材料の値上がりの煽りを食って、小さな洋菓子店も商品の価格を見直した。
- 兄の部屋の片づけが長引いた煽りを食って、家族全員の夕食が遅くなった。
- 大雨による大会中止の煽りを食い、応援のために準備していたバスも取りやめになった。
- 海外の景気悪化の煽りを食って、国内の工場でも生産計画が変更された。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・J・C・ヘボン編『和英語林集成 初版』1867年。
・猪牙散人『船頭部屋』文化年間刊。
・河竹黙阿弥『天衣紛上野初花』1881年。
・Cambridge University Press『Cambridge Dictionary』。
・Oxford University Press『Oxford Advanced Learner’s Dictionary』。























