【慣用句】
灰汁が抜ける
【読み方】
あくがぬける
【意味】
人の性質・趣味・容姿などから嫌みやあくどさがなくなり、さっぱりと洗練されること。


【英語】
・become more refined.(より洗練される)
・become more polished.(よりこなれて洗練される)
【類義語】
・垢抜ける(あかぬける)
・角が取れる(かどがとれる)
・圭角が取れる(けいかくがとれる)
【対義語】
・灰汁が強い(あくがつよい)
・野暮ったい(やぼったい)
「灰汁が抜ける」の語源・由来
「灰汁が抜ける」は、料理や生活の中で使われてきた「灰汁」という言葉から生まれた言い回しです。「灰汁」は、もともと植物の灰を水に浸して取る上澄み液を指し、古くは洗剤、漂白、染色などに使われました。
この「灰汁」は、平安時代の『古今和歌集』(905〜914年・平安時代前期、勅撰和歌集)にも用例が出てきます。そこでは、染めることや色に関わる言葉として「あく」が使われ、灰を水に浸した上澄み液という古い意味を示しています。
やがて「灰汁」は、山菜や野草などに含まれる渋み・えぐみのもとになる成分も指すようになりました。さらに、肉などを煮たときに煮汁の表面へ浮く白く濁ったものも「灰汁」と呼ばれます。
料理では、味を損なう苦み、渋み、えぐみなどを取り除くことを「灰汁抜き」といいます。ワラビやゼンマイ、タケノコ、ゴボウなどを下ごしらえする場面で、灰汁を抜くことは、食材のくせをやわらげて食べやすくする工夫です。
この具体的な料理の動作から、人の性質や趣味、容姿などにある嫌みやあくどさが取れて、さっぱりと洗練されることを「灰汁が抜ける」と表すようになりました。食べ物の渋みやえぐみが取れることを、人の印象のくどさやどぎつさが取れることに重ねた言い方です。
現在の意味に近い古い用例として、江戸時代中期の浮世草子『諸道聴耳世間猿(しょどうききみみせけんざる)』(1766年・江戸時代中期、和訳太郎〔上田秋成〕作)に、「女房おりさも加茂川の水に灰汁(アク)のぬけた粋の果」という表現が出てきます。ここでは、料理そのものではなく、人の性質や姿が洗練されて嫌みがなくなる意味で用いられています。
『諸道聴耳世間猿』は、京坂のさまざまな人物を風刺的に描いた浮世草子です。そのような人間模様の中で「灰汁のぬけた」と言うことで、ただおとなしいだけでなく、粋で、くどさの取れた人物像を表しています。
この言い回しは、のちに「灰汁抜け」「灰汁抜ける」という形でも用いられました。「灰汁抜」は、野菜などの灰汁が抜けることに加え、気性や容姿、腕前、行動などが都会化して野暮くさくなくなること、洗練されることも表します。
明治初期の滑稽小説『牛店雑談 安愚楽鍋(うしやぞうだん あぐらなべ)』(1871〜1872年・明治時代、仮名垣魯文作)には、「あくぬけのした人物」「あくぬけた風俗」という用例が出てきます。文明開化期の牛鍋屋に集まる人々の会話を描いた作品の中で、都会風にこなれた印象を表す言葉として使われています。
この流れを見ると、「灰汁が抜ける」は、食材から渋みやえぐみが取れるという生活の実感をもとに、人から嫌みやくどさが取れて洗練されることへ移った表現だといえます。強い個性そのものを否定する言葉ではなく、受け入れにくいしつこさやどぎつさがやわらぎ、すっきりした印象になることを表す慣用句です。
「灰汁が抜ける」の使い方




「灰汁が抜ける」の例文
- 長く厳しい口調で注意していた監督は、年を重ねて灰汁が抜けるように話し方が穏やかになった。
- 派手すぎた店の看板は、色数を減らしたことで灰汁が抜ける印象になった。
- 新人のころは力みの目立った俳優も、経験を積んで灰汁が抜ける演技を見せるようになった。
- 文章の言い回しを整理すると、作者の個性を残したまま灰汁が抜ける仕上がりになった。
- 昔は押しの強さが目立った友人も、社会に出てから灰汁が抜けるように人当たりが柔らかくなった。
- 部屋の飾りを減らして家具の色をそろえたら、全体の雰囲気に灰汁が抜ける落ち着きが生まれた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・平凡社編『改訂新版 世界大百科事典』平凡社、2007年。
・上田秋成『諸道聴耳世間猿』1766年。
・仮名垣魯文『牛店雑談 安愚楽鍋』1871〜1872年。
・『古今和歌集』905〜914年。
・Oxford University Press『Oxford Advanced Learner’s Dictionary』.
・Cambridge University Press『Cambridge Dictionary』.























