【慣用句】
草木も靡く
【読み方】
くさきもなびく
【意味】
威勢や徳望がきわめて盛んなため、すべてのものがその力に従うさま。勢いが非常に盛んなこと。


【類義語】
・飛ぶ鳥を落とす勢い(とぶとりをおとすいきおい)
「草木も靡く」の語源・由来
この表現のもとには、風や水の力を受けた草木が、一つの方向へ傾く具体的な姿があります。「靡く」は古くから、風や水に押されて横へ動くことを表し、『日本書紀(にほんしょき)』(720年・奈良時代)には、川辺の柳が水の流れに従ってなびく様子を詠んだ歌が記されています。
「靡く」は早い時期から、人が相手の力や魅力に引かれて従うという比喩的な意味にも広がりました。『万葉集(まんようしゅう)』(8世紀後半成立、奈良時代)にも、人の心や態度が相手へ傾くことを「なびく」と表した例があり、草木の動きから人の心の動きへと、意味が広がっていたことが分かります。
「草木も靡く」というまとまった形の古い例は、『宇津保物語(うつほものがたり)』(10世紀後半成立、平安時代中期、作者未詳)の「俊蔭(としかげ)」の巻に出てきます。この作品は、琴の名手の一族を四代にわたって描いた物語です。
物語では、俊蔭の娘とその子が山中で琴を奏でると、獣たちが聞き入り、猿が食べ物を運び、草木までもがなびきます。「草木もなびく中に」という言葉は、美しい琴の音が人間だけでなく、動物や植物にまで届くほどの不思議な力をもつことを表しています。
この段階の「草木も靡く」は、政治的な権力に従うことだけを表しているのではありません。心をもたない草木まで動かされるという誇張によって、音楽の力があらゆるものに及ぶ様子を描いています。
その後、『平治物語(へいじものがたり)』の古い本文として伝わる『陽明文庫本平治』(1220年ごろ・鎌倉時代前期)には、信西(しんぜい)の権勢について、「飛鳥もおち草木も靡く程也」とあります。空を飛ぶ鳥さえ落ち、草木さえ従うほどであるという誇張によって、信西の政治的な力が非常に強かったことを述べた箇所です。
『宇津保物語』では、琴の音が自然界にまで及ぼす力を表していましたが、『平治物語』では、有力者の権勢に人々が従うことを表しています。「草木」は実際の植物から「あらゆるもの」へ、「靡く」は風に傾く動きから「強い力に従うこと」へと意味を広げ、現在に近い用法へとつながりました。
現在では、政治的な権力だけでなく、非常に大きな名声や徳望、盛んな勢力についても使われます。ただし、草木まで従うという大きな誇張を含むため、身近な小さな人気よりも、世間全体を動かすほどの強い影響力を表す場面に似合う表現です。
このように、「草木も靡く」は、風や水に従って傾く草木の姿をもとに、人や世の中が強大な力に従う様子を表すようになりました。心をもたない草木さえも従うという比喩によって、並外れて盛んな威勢や影響力を強く印象づける言い方です。
「草木も靡く」の使い方




「草木も靡く」の例文
- 若い将軍は連戦連勝を重ね、草木も靡くほどの威勢を示した。
- 当時の大臣は草木も靡く権勢を誇り、正面から反対する者はほとんどいなかった。
- 新しい党首は国中の支持を集め、草木も靡くほどの勢力を築いた。
- その実業家は草木も靡く勢いで事業を広げ、社会に大きな影響を与えた。
- 名監督は草木も靡くほどの徳望を集め、多くの優秀な選手から慕われた。
- その歌手は草木も靡くほどの人気を得て、若者の服装や言葉づかいにまで影響を及ぼした。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・中野幸一校注・訳『新編日本古典文学全集14 うつほ物語1』小学館、1999年。
・永積安明・島田勇雄校注『日本古典文学大系31 保元物語・平治物語』岩波書店、1961年。























