【ことわざ】
老いては子に従え
【読み方】
おいてはこにしたがえ
【意味】
老年になってからは、何事も子にまかせ、その判断に従うほうがよいという教え。


【英語】
・pass the torch(役目や責任を次の人へ引き継ぐ)
・hand over the reins(支配や管理を他の人へゆだねる)
【類義語】
・三従(さんじゅう)
・負うた子に教えられて浅瀬を渡る(おうたこにおしえられてあさせをわたる)
【対義語】
・亀の甲より年の功(かめのこうよりとしのこう)
・老馬の知(ろうばのち)
「老いては子に従え」の語源・由来
「老いては子に従え」は、年を取ったら、物事を子にまかせ、その判断に従うほうがよいという教えを表すことわざです。もとは、女性のあり方を説いた「三従(さんじゅう)」の考えと深く結びついています。
三従とは、昔、女性が守るべきものとされた三つの従い方を指します。結婚前には父に、結婚後は夫に、夫の死後は子に従うという考えです。
古い根拠の一つは、中国の儒教の経書『儀礼(ぎらい)』「喪服」にあります。そこには、婦人には三従の義があり、「未嫁從父、既嫁從夫、夫死從子」と記されています。
この一節は、まだ嫁がないときは父に従い、嫁いでからは夫に従い、夫が亡くなったあとには子に従う、という意味です。もともとは、女性の服喪や家族関係の中で、だれを重んじるかを述べた考えでした。
また、『礼記(らいき)』「郊特牲」にも、女性は人に従う者であり、幼くしては父兄に従い、嫁しては夫に従い、夫が亡くなれば子に従うという内容が記されています。儒教の礼の考えの中で、家族の秩序を保つ規範として受け止められてきました。
仏典では、『大智度論(だいちどろん)』巻九十九に、「女人之体、幼則従父母、少則従夫、老則従子」という形が出てきます。『大智度論』は、『大品般若経』の注釈書で、竜樹著と伝えられ、鳩摩羅什訳の百巻本として知られます。
この文は、女性は幼いときは父母に従い、若いときは夫に従い、老いてからは子に従う、という意味です。現在の「老いては子に従え」は、この最後の部分が日本語のことわざとして独立した形といえます。
日本での古い用例としては、俳諧書『毛吹草(けふきぐさ)』に見える例が挙げられます。『毛吹草』は、松江重頼編の江戸時代の俳諧関係の書物で、早稲田大学図書館の古典籍データにも同書名と編者名が記されています。
江戸初期には、三従の最後の部分が独立して使われるようになりました。その後は、女性だけに限らず、男性の老人にも広く使われるようになり、隠居制度とも結びついて受け止められていきました。
江戸後期には、江戸のいろはかるたにも収録され、絵札には男の老人が描かれました。このことから、もとの女性規範から離れ、年を取った人一般についていうことわざとして広まったことが分かります。
このことわざは、かつての価値観をそのまま現代に当てはめるための言葉ではありません。現在では、年を重ねた人が意地を張りすぎず、子や若い世代の考えにも耳を傾けることを促す言い方として用いられます。
ただし、子が親に命令してよい、親を軽んじてよいという意味ではありません。親の経験を敬いながら、時代や暮らしの変化に合わせて、次の世代にまかせる場面もあるという教えとして受け取るのが穏当です。
「老いては子に従え」の使い方




「老いては子に従え」の例文
- 父は家の改修を子どもたちに任せ、老いては子に従えの心で新しい暮らしを受け入れた。
- 祖母は病院選びに迷ったが、老いては子に従えと思い、娘のすすめる医師に相談した。
- 会社を退いた創業者は、老いては子に従えと考え、後継者の方針を見守った。
- 老いては子に従えという言葉は、年長者を軽んじるためではなく、世代交代を穏やかに受け入れる知恵を示す。
- 母はスマートフォンの使い方に不安があったが、老いては子に従えと笑って息子の説明を聞いた。
- 家族で介護の方針を決めるとき、祖父は老いては子に従えと話し、子どもたちの意見を尊重した。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・集英社辞典編集部編『会話で使えることわざ辞典』集英社、1989年。
・松江重頼編『毛吹草』江戸時代。
・『儀礼』。
・『礼記』。
・龍樹著と伝えられる、鳩摩羅什訳『大智度論』。























