【ことわざ】
命に過ぎたる宝なし
【読み方】
いのちにすぎたるたからなし
【意味】
命より大切なものは、この世にないという意味。


【類義語】
・命あっての物種(いのちあってのものだね)
・死んで花実が咲くものか(しんではなみがさくものか)
・死ぬ者貧乏(しぬものびんぼう)
【対義語】
・命は鴻毛より軽し(いのちはこうもうよりかるし)
「命に過ぎたる宝なし」の語源・由来
「命に過ぎたる宝なし」は、だれの命も何より価値があるという教えを、古い言い回しで短くまとめたことわざです。「命」は生命や生きている力を表し、「宝」は金銀などの貴重品だけでなく、ほかのものとは取り替えられない大切なものも指します。そのため、このことわざでは、財産や名誉などを「宝」と呼べるほど大切なものとして思い浮かべたうえで、それでも命を越えるものはないと述べています。
「過ぎたる」は、今の言い方なら「過ぎた」「上回る」に近い古い形です。文語の助動詞「たり」には連体形の「たる」があり、「命に過ぎたる宝」は「命を上回るほどの宝」という古風な言い方として成り立っています。
現在の形にたいへん近い考えは、中世の日記文学『問はず語り(とわずがたり)』(1306年以後、1313年までに成立、後深草院二条作)に出てきます。この作品は全五巻の日記文学で、宮廷での生活や、出家後の旅と信仰について書かれています。
巻五の一節には、「人の身に命に過ぎたる宝、何かはあるべきを、君の御ためには捨つべきよしを思ひき」とあります。これは、「人の身にとって命を越える宝がほかにあろうか、しかし君のためなら捨ててもよいと思った」という意味に読みほどけます。ここでは、命を最上の宝と考えながらも、相手への思いからそれを差し出すほどの覚悟が語られています。
このように、「命」と「宝」を比べる言い方は、古くから命の尊さを強く示す表現として使われました。のちには、問いかけを含む長い形から、教訓として覚えやすい「命に過ぎたる宝なし」という言い方へと整っていきました。近い表現として「命に替える宝はなし」もあり、命と引き替えにできるほどの宝はないという発想でつながっています。
現在では、財産・勝負・名誉・約束などを大切にする場面でも、命だけは失っては取り返せないという戒めとして用います。単に「生きていればよい」と言うのではなく、どれほど大切に思えるものがあっても、命を失えば、それを守ることも味わうこともできないという考えを、静かに伝えることわざです。
「命に過ぎたる宝なし」の使い方




「命に過ぎたる宝なし」の例文
- 大事な試合でも、けがを押して出場するのは危険であり、命に過ぎたる宝なしを忘れてはならない。
- 家族は、台風の夜に無理に店へ向かおうとする父を、命に過ぎたる宝なしと言って止めた。
- 山の天気が急に悪くなったので、登山隊は命に過ぎたる宝なしと判断して引き返した。
- 高価な品を火事の家から取りに戻ろうとした彼は、命に過ぎたる宝なしと諭されて思いとどまった。
- 命に過ぎたる宝なしという言葉は、損をしてもまず安全を守る考えにつながる。
- 災害時には、持ち物より避難を優先することが、命に過ぎたる宝なしの実践となる。
主な参考文献
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・後深草院二条『とはずがたり』1306年以後、1313年までに成立。
・久保田淳校注・訳『完訳日本の古典38・39 とはずがたり』小学館、1985年。























