【ことわざ】
花中の鶯舌は花ならずして芳し
【読み方】
かちゅうのおうぜつははなならずしてかんばし
【意味】
よい環境の中にいると、そこにいるものも自然によい影響を受け、すぐれたものになるというたとえ。


【英語】
・A man is known by the company he keeps.(人は交わる相手によって人柄を見られる)
【類義語】
・芝蘭の室に入る如し(しらんのしつにいるごとし)
・麻の中の蓬(あさのなかのよもぎ)
【対義語】
・鮑魚の肆に入るが如し(ほうぎょのいちぐらにいるがごとし)
「花中の鶯舌は花ならずして芳し」の語源・由来
「花中の鶯舌は花ならずして芳し」は、春の花の中で鳴くウグイスの声をもとにした、たいへん風雅なことわざです。「花中」は花の中、「鶯舌」はウグイスの舌から転じて、ウグイスの鳴く声を表します。
「芳し」は、もとは香りがよいことを表す言葉です。また、評判がよい、立派である、好ましいという意味にも広がっています。このことわざでは、声そのものに香りがあるわけではありませんが、花の中で聞こえるため、まるで花の香りを帯びたようにすばらしく感じられる、という見立てが働いています。
古い形として、狂言「花子」に近い句が出てきます。虎明本狂言「花子」には「花中の鶯舌は,花ならねどかうばしひ」という形が、天理本狂言「花子」には「花中の鶯舌は,花ならずしてかんばし」という形が伝わっています。
虎明本は、寛永十九年、すなわち1642年に大蔵弥太郎虎明が書写した大蔵流狂言の祖本です。室町時代末期から江戸時代初期にかけての狂言の姿や当時の言葉を知るための、重要な台本として扱われています。
狂言「花子(はなご)」は、妻の目を盗んで遊女の花子に会いに行こうとする男を描いた曲です。男は太郎冠者を身代わりにして出かけますが、最後には妻に見破られ、花子と過ごした夜のことを妻の前で語ってしまいます。
この曲では、恋の思いや花の宴を思わせる小歌が多く用いられます。美しい言葉や歌の響きが重ねられる中で、「花中の鶯舌」という表現も、花とウグイス、香りと声を結びつける言い回しとして生きています。
この表現の面白さは、花は香るが、ウグイスの声は香らないという点にあります。それでも、花の中で聞くウグイスの声は、花に囲まれることで、ただの声以上に美しく、好ましいものとして受け取られます。
そこから、よい環境にいれば、その環境に染まって人や物も自然によくなる、という教えが生まれました。花そのものではないウグイスの声が、花の中にあることで芳しく感じられるように、人もまた、よい人々やよい場に囲まれることで、心やふるまいがよい方向へ導かれるという考えです。
近い考えを表す言葉に「芝蘭の室に入る如し」があります。香りのよい芝蘭の部屋に入ると自然に香りが身につくように、徳の高い人と交わると、知らないうちによい感化を受けるという意味です。
反対に、悪い仲間と交わると悪い影響を受けることを「鮑魚の肆に入るが如し」といいます。よい香りに染まるか、悪いにおいに染まるかという対照を考えると、「花中の鶯舌は花ならずして芳し」が、環境の力を美しく言い表したことわざであることがよく分かります。
「花中の鶯舌は花ならずして芳し」の使い方




「花中の鶯舌は花ならずして芳し」の例文
- 落ち着いた学級で過ごすうちに、花中の鶯舌は花ならずして芳しのように、彼の言葉づかいも穏やかになった。
- 熱心な先輩たちに囲まれ、花中の鶯舌は花ならずして芳しというように、新入部員も自然と練習に励むようになった。
- よい本がそろう図書室で学ぶ子どもたちは、花中の鶯舌は花ならずして芳しのたとえどおり、読む力を少しずつ伸ばしていった。
- 親切な人々の中で働くうちに、花中の鶯舌は花ならずして芳しといえるほど、彼の応対も明るく丁寧になった。
- 美しい音楽に親しむ家庭で育った妹は、花中の鶯舌は花ならずして芳しのように、自然と歌を好むようになった。
- よい友人と学び合うことは、花中の鶯舌は花ならずして芳しという言葉のとおり、人の心をよい方向へ導く。
主な参考文献
・三省堂編修所編『新明解故事ことわざ辞典 第二版』三省堂、2016年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・池田広司・北原保雄著『大蔵虎明本狂言集の研究 本文篇』表現社、1972〜1983年。
・大蔵虎明『虎明本狂言集』1642年。























