【故事成語】
上、材を求むれば臣は木を残う
【読み方】
かみ、ざいをもとむればしんはきをそこなう
【意味】
上に立つ者の不用意な言葉や望みが、下の者の行きすぎた行動を招き、思わぬ害を生むことの戒め。


【英語】
・A leader’s words carry weight.(指導者の言葉には重みがある)
【類義語】
・上行下効(じょうこうかこう)
・楚王細腰を好みて宮中餓死多し(そおうさいようをこのみてきゅうちゅうがしおおし)
「上、材を求むれば臣は木を残う」の故事
「上、材を求むれば臣は木を残う」は、中国前漢の思想書『淮南子(えなんじ)』「説山訓」にもとづく故事成語です。『淮南子』は、前漢の淮南王劉安が多くの学者を集めて編んだ二十一篇の書物で、政治・兵学・天文・地理など、幅広い内容を含んでいます。
「説山訓」は、『淮南子』の巻十六にあたる篇です。この篇には、短いたとえ話や対句を重ねながら、人の判断や政治のあり方を考えさせる言葉が多く出てきます。
この言葉の前には、楚の王が猿を失うと林の木が傷つけられ、宋の君主が珠を失うと池の魚が取り尽くされた、という例が置かれています。上に立つ者が何かを求めると、下の者がその意をくみすぎて、まわりのものまで損なうことを示しています。
その後に、「上求材,臣残木;上求魚,臣干谷」とあります。これは、上の者が材木を求めると臣下は木を傷め、上の者が魚を求めると臣下は谷川の水まで干してしまう、という意味です。
ここでいう「材」は、必要な木材のことです。君主がただ材木を求めただけでも、臣下は気に入られようとして、必要以上に木を切り出してしまうというたとえになっています。
「上求魚,臣干谷」は、同じ考えを魚のたとえで述べたものです。魚を求められた臣下が、魚を取るために谷川の水まで干してしまうという形で、命令や希望を受けた側の過度な行動を表しています。
さらに続けて、「上求楫,而下致船」「上言若絲,下言若綸」とも述べられています。上の者が櫂を求めれば下の者は船まで用意し、上の言葉が細い糸のようでも、下では太い綱のように大きく受け取られる、という意味です。
この並びから分かるのは、上位者の言葉や好みは、本人が思う以上に強い力をもつということです。小さな発言でも、下の者が大きな命令として受け取り、行きすぎた行動を取ることがあります。
日本語の形では、原文の「上求材,臣残木」を訓読した形に近く、「上、材を求むれば臣は木を残う」といいます。「残う」は、現代ではあまり使わない読みですが、「そこなう」と読み、壊す・傷つける意味をもつ言葉です。
この故事成語は、単に部下がまねをするというだけでなく、上に立つ人の言葉が思わぬ方向へ大きく広がる危うさを教えています。立場のある人は、自分の一言が周囲にどう受け取られるかを考え、慎重に言葉を選ぶ必要がある、という戒めにつながっています。
「上、材を求むれば臣は木を残う」の使い方




「上、材を求むれば臣は木を残う」の例文
- 社長の何気ない一言で全社員が休日返上になり、上、材を求むれば臣は木を残うのような結果を招いた。
- 部長が少し資料を見たいと言っただけなのに、課全体で大量の資料を作り直し、上、材を求むれば臣は木を残うとなった。
- 先生の希望を聞き違えて、係の児童が必要以上に準備を広げてしまい、上、材を求むれば臣は木を残うの例になった。
- 責任者は、上、材を求むれば臣は木を残うを忘れず、部下が過度に動かないように指示を明確にした。
- 父の軽い提案を家族全員が大仕事として受け止め、上、材を求むれば臣は木を残うのように予定がふくらんだ。
- 上、材を求むれば臣は木を残うというように、立場のある人ほど言葉の影響を考える必要がある。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』小学館、1984〜1994年。
・日本漢字能力検定協会編『漢検 漢字辞典 第二版』日本漢字能力検定協会、2014年。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・劉安編『淮南子』前漢、紀元前2世紀。
・Merriam-Webster『Merriam-Webster.com Dictionary』Merriam-Webster.























